コラム

政府に優しく外国に厳しい中国人の「二面性」

2017年02月09日(木)16時00分

<中国人は国内問題では政府に対してどこまでも寛容だが、その反面、外国人に対しては少しの譲歩も見せない二面性を発揮する>

共産党の洗脳教育のおかげで、中国人は政治問題に対して奇妙な二面性を発揮する。国内問題に対する彼らの態度は非常に寛容だ。政府を思いやり、政府に代わって弁明する。典型的な「ストックホルム症候群」の心理状態だ。

ところが国際問題となると、外国に対しては少しも譲ろうとしない。相手の立場に配慮するという考え方はせず、「お前が死ねば俺が生き残る」的な戦時の心理状態に置かれる。

たとえば、ますますひどくなるPM2.5の問題。多くの中国人は「すべての国家は工業化の過程で環境汚染を経験する。これは避けられない」と言う。イギリスと日本の歴史を挙げ、中国のPM2.5問題を弁解するのだが、彼らは政府の問題ある姿勢は無視している。

北京大学公衆衛生学部の教授が15年にまとめた研究によれば、13年に中国の主要な31都市で大気汚染が原因で死亡した人の数は25万7000人に達した。中国政府はこの論文をどうしたか。彼らはネットからこの論文を完全に削除。

さらに今年1月17日、政府気象局がPM2.5の早期警報を禁止する通知を出した。これは、政府がPM2.5問題の解決を放棄したことを意味している。中国では13年以降だけでも、毎年20数万人規模の「大虐殺」が発生している。もし中国政府が何も対策を取らなければ、毎年虐殺が続くことになる!

【参考記事】我慢は限界、シンガポール「親中外交」の終焉

司法が独立していないという大きな問題もある。警官は政府の黙認の下で他人を傷つけ、ひどい時は無実の人が死亡するケースもある。愛国者たちは「確かにいくつか問題があるが、全体を見れば悪くない。改革に期待しよう」とよく言う。

共産党政府が弁護士や政府と意見の異なる人々を好き放題に逮捕する状況はだんだんひどくなり、最高裁判所のトップが公然と司法の独立に反対するこの状況で、どうやって改革を進めるのか。

ネット空間もますます閉じられている。これまではVPN(バーチャル・プライベート・ネットワーク)などの方法で「壁越え」できたが、中国工業・情報化省は1月22日、「インターネット接続サービス市場の整理・規範化に関する通知」を発表。この日から18年3月31日までの間に、全国のネットサービス市場の「整理」を始めることを決めた。

これは中国人が「壁越え」して世界を見ることが間もなく過去の歴史になり、今後、全中国が巨大なLANと化すことを意味している。中国はもう世界とつながることはできない......のかもしれない。

ますます悪くなるこういった問題に直面してなお、中国人は政府に代わって「いつかよくなる」「ほかの国家も同じ。政府に時間を与えてゆっくりと改革すべき」「政府の困難を理解しよう」と、あれこれ理由を探している。

これほど他人のことを善意に解釈できるなら、もし国際問題で同じことをしていれば、中国はとっくに周辺国家から最も歓迎される「お隣さん」になっていたはずだが。

プロフィール

辣椒(ラージャオ、王立銘)

風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、南ア・印・ブラジル首脳と相次ぎ電話協議

ワールド

中欧向けロシア原油が輸送停止、ウクライナが輸送管攻

ワールド

トランプ氏「紛争止めるため、追及はせず」、ゼレンス

ワールド

中国首相、消費促進と住宅市場の安定を強調 経済成長
今、あなたにオススメ
>
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する現実とMetaのルカンらが示す6つの原則【note限定公開記事】
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 6
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 7
    アラスカ首脳会談は「国辱」、トランプはまたプーチ…
  • 8
    「これからはインドだ!」は本当か?日本企業が知っ…
  • 9
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 10
    あまりの猛暑に英国紳士も「スーツは自殺行為」...男…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 10
    【クイズ】アメリカで最も「盗まれた車種」が判明...…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story