コラム

アベノミクス論争は無駄である

2016年07月07日(木)11時12分

 ただし、一番の問題は、株を買い増ししてから、世界と日本の株価は大きく下げており、現在2015年度に5兆円の損失が出たと推定され、その公表を意図的に延期しているという報道もあり、また、現在の下げで、4~6月期にも5兆円程度の損失が出たのではないかという推計も報じられている。さらに今後も下がる可能性はある。

 ただ、2013年から株価が大きく戻したことによる利益もあるので、アベノミクスによる年金財政への貢献はなんとも言えない部分もある。しかも、どの部分が異次元緩和によるものか、世界的な株価の回復だけによるものか、判断は難しい。いつかは回復したはずと考えれば、異次元緩和は関係ないことになるが、回復したのは異次元緩和によるものであるから、それはかなり偏った意見であろう。

 ここで、確実に言えることは、GPIFが資金配分を変更した2014年10月末以降のパフォーマンスについて比較すると、つまり、日本株などへの配分を増やさなかった場合と比較して、どれだけ損失が大きくなったか、ということを考えると、買い増しのタイミングの厳密な推計は出来ないが、かなり高くなってから買い増しを行ったと思われるため、かなり大きな損失が(少なくとも数兆円オーダーで)、配分変更によりもたらされたと考えられるため、配分変更は失敗だったと言えるだろう。もちろん、今後、配分変更により利益が多く出る可能性もあるから、現時点だけの判断が正しいわけではない。ただし、変更がピークに近いタイミングで行われたことは運が悪かったか、稚拙だったか、どちらかの評価になるであろう。


プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

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