コラム

なぜ1人10万円で揉めているのか

2021年12月14日(火)12時03分
岸田文雄

揺れる岸田首相(写真は12月6日に開会した臨時国会でお辞儀をしたところ) Issei Kato-REUTERS

<現金かクーポンかの議論でさんざん時間を無駄にしたあげく結局どっちでもいということになったのは、もともとそんな10万円は誰も必要としていないからだ。ではなぜ茶番は起こったの>

国会はなぜなぜ1人10万円で揉めているのか──それは必要ないからだ。

18歳以下の子供(18歳は子供ではないはずだが)に1人10万円を給付する、そのやり方で揉めに揉めている。

その理由は単純で、誰も10万円を必要としていないから、どうでもいいからだ。

生活に困窮して明日にも飢え死にしてしまう、だから一刻も早く配らなければいけないのであれば、クーポンなど間に合わない。5万円を二回に分けるのではだめだ。年内にすぐに現金10万円を配れとなるはずだ。

明日にも死んでしまうのであれば、10万円を給付するよりも、すぐに駆けつけたほうがいい。そもそも選挙の公約として決まった時点で、政権を握っていたのだから、臨時国会を開いてすぐに決めればよかった。もう公約を打ち出してから3ヶ月以上が経っている。10万円がなくて死んでしまう子供たちは、この3ヶ月ですでに命を落としているだろう。

それでも、公明党と自民党という政権与党同士が配り方で揉めた。そして、今もクーポンだと経費がかかりすぎると揉めている。しかし騒いでいるのは国会の内部だけで、10万円を1日でも早く配れというデモは起こっていない。

そもそも給付の目的は何か。

コロナで生活に困窮している人たちに現金を配ること。困窮者支援だ。

しかし、コロナで困っているのであれば、もうずいぶん時間が経っている。2年だ。そして、最悪期は去った。今、仕事を探して仕事がないのであれば、それはコロナのせいではない。人手不足でどこも困っている。

本当に困っている人に非情なクーポン

もしかしたら働けない理由があるのかもしれない。本当に困っている人たちがいるのかもしれない。しかし、それなら10万円一回配っても焼け石に水だ。金よりも、支援の仕組みを早く作らなくてはいけない。

なぜクーポンという案になったのか。

前回、10万円をばら撒いたときにほとんど貯金に回ってしまったから、景気対策としては効果がないと言われてしまったからだ。これは日本人がケチ、いや倹約家、心配性だからではない。1200ドルを配った米国でも起こった問題で、米国では貯蓄と言っても、いままで株を買ったことがない若者たちが、ゲームとして株取引を行い、10万円を失っただけでなく、借金が膨らみ自殺者まで出たというような社会問題になった。

日本では、欧米のように失敗の政策に懲りることなくもう一度現金を配ろうとしているから、せめて景気対策にもなるように、貯金せず使わざるを得ないクーポンという案が浮上したのだ。

しかし、この案も馬鹿げていて、困っているひとたちに10万円配って生活を支えるのであれば、すぐに使えというのは酷な話で、一生に二度ともらえない10万円だから大切に貯金して、1年に1万円ずつ10年にわたって大切に使うのが、彼らを幸せにする唯一の方法だ。だから、クーポンで使え、というのであれば、10万円は生活苦の人に配ってはだめで、前回のように、金持ちに配らないといけない。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

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