「値下げ競争」が世界を守った?...米ソの冷戦が核戦争にならなかった理由は「数学で」説明できる

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<なぜ核戦争は起きなかったのか。冷戦時代、武力衝突がないかわりに核開発が進んだ理由は、「競合店同士の価格競争」が起きていたから>
アメリカとソ連がにらみ合っていた冷戦時代、第三次世界大戦がいつ起きてもおかしくないと言われながら、人類は半世紀を乗り切った。
数学史ライターのFukusuke氏は、その理由を米ソ両国の間に「ナッシュ均衡」が起きていたからだと説明する。Fukusuke氏が上梓した『教養としての数学史』(かんき出版)より、「なぜ核戦争は起きなかったのか」を数学的に解説する。
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世界を救った「ナッシュ均衡」は「値下げ競争」
1945年8月、アメリカが広島と長崎に落とした原子爆弾によって核兵器の圧倒的な力が世界中に示され、この時点で核兵器を独占していたアメリカは国際的に大きな影響力を誇示していた。
元々は同じ連合国側として第二次世界大戦を戦ったアメリカとソビエト連邦(ソ連)。しかし、資本主義を掲げるアメリカと社会主義を掲げるソ連の間に軋轢が生じる。その間、ソ連は秘密裏に核開発を行っており、1949年に核実験を成功させたことでアメリカ一強の構図が崩れた。
一時は核兵器による第三次世界大戦が始まることも危ぶまれたが、そうならなかった。約半世紀もの間、世界は緊張状態にはあったものの、2つの大国が熱を帯びない冷戦の状態が続いたのだ。この背景には、ゲーム理論における「ナッシュ均衡」という考え方があった。
ナッシュ均衡とは何か。