コラム

経済政策は一切いらない

2021年11月10日(水)10時59分
岸田首相と公明党の山口代表

選挙公約だから? 所得制限をつけるかつけないか、問題はそんなことではない(総選挙前の党首討論会で) Issei Kato-REUTERS

<10万円給付、所得制限で自公が綱引き──どちらも正しくない気はするが、正解がわからない人へ>

今必要なのは経済政策ではなく、社会政策なのだ。

何度も主張しているが、誰も、少なくとも政治家とメディアは誰も理解していない。

第一に、日本の景気は良い。世界の景気はもっと良い。そして、日本の景気はこれからさらに良くなる。現在、景気のための経済対策をすることは、意味がないだけでなく、逆効果だ。

第二に、世界ではインフレが進んでいる。日本では、統計には現れないが、現実にはインフレが進行している。企業が忍耐強いのと、消費者が値上げに異常に敏感、ヒステリックに反応するので、値上げに見えないように、値上げしている。コスト削減で耐え、そして、質を低下させ、労働を疲弊させている。景気対策をすれば、インフレリスク、企業のストレスを増大させ、それは労働者、働き手に負担がしわ寄せされてくる。

本当の景気悪化は来年後半以降

第三に、景気対策は経済成長力を低下させる。今の消費を刺激すれば、将来への投資は減る。目先の売り上げに終始する。GoTo政策は、まさにその典型だ。ディスカウントでしか旅行しない消費者を増大させ、将来の消費は減る。補助金なしでは旅行に行かない、外食しない、ということになる。最悪だ。裕福な消費者、上顧客は、GoToで群がる観光客、外食客を嫌って、消費しない。最悪だ。

さらに、将来への投資も減る。変化のチャンスを逃す。長期的なビジネスモデル、人材育成ではなく、今、儲けることに終始する。GoToと同じ構造が、製造業を含め、産業全体に広がるのだ。

第四に、景気の悪化は来年後半以降やってくる。そのときに打つ手が残っていない。金が残っていない。それまでに、景気をさらに過熱させると、反動がよりきつくなるだけだ。消費者も、消費する意欲は満たされ、金も残っていないから、景気の谷は深くなる。

第五に、社会が壊れる。悪化する。闇雲に現金をばら撒いたおかげで、不正がはびこっている。経済産業省のキャリア官僚が、制度を悪用して豪遊し、飲食店でも本当に苦しんでがんばっているところと、給付金で遊んでいる経営者がいる。さらに、休業支援の雇用調整助成金を「日本旅行業協会」会長の会社が多額の不正受給をしていたという報道まで出てきて、世も末だ。これでは、政治不信だけでなく、社会不振になる。不正を働くことを野放しに、さらに積極的に税金の補助金を彼らに流し込むことを、スピード感が重要、という、いまさら、コロナ丸二年になろうとしているときに言っている。

日本社会の信頼が崩壊する。しかも、それは経済対策としては必要のないものばかりだ。

今必要なのは、経済対策ではない。社会対策なのだ。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ブラジル大統領選、ボルソナロ氏が長男出馬を支持 病

ワールド

ウクライナ大統領、和平巡り米特使らと協議 「新たな

ワールド

プーチン大統領、トランプ氏にクリスマスメッセージ=

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    【銘柄】「Switch 2」好調の任天堂にまさかの暗雲...…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story