コラム

「韓国大好き」は実は少数派に過ぎない......データが語る日韓ポップカルチャー交流の限界

2023年12月19日(火)18時48分
韓流

ヨン様ブームから20年(2004年、成田空港)JUNKO KIMURA/GETTY IMAGES

<日本におけるKポップ人気や、韓国での漫画やアニメの隆盛が将来の日韓関係によい影響をもたらすはずだ――韓流ブームが始まって20年。むしろ日韓関係は問題が次々と発生し、悪化の一途をたどってきた。なぜか>

「日韓のポップカルチャーの影響についてお願いします」。そんな講演や特別講義の依頼が増えている。期待されているのは、日本におけるKポップ人気や、韓国での漫画やアニメの隆盛が将来の日韓関係によい影響をもたらすはずだ、という話である。韓国政府系の団体の好むお題であり、尹ユン・ソンニョル錫悦政権の強い希望もあり、さまざまな所で同様の企画が組まれている。

しかし、このような依頼を受けるたびに筆者は頭を抱える。なぜならポップカルチャーと外交との関係は、それほど単純なものではないからだ。例えば、日本で本格的な韓流ブームが始まったのは2003年。いわゆる「ヨン様ブーム」からで、日本における韓流には既に20年以上の歴史がある。

ではそこから今日までの日韓関係が平穏に推移したか、といえばそうではない。05年の竹島問題、11年から激化する慰安婦問題、18年の大法院(最高裁)判決以降の元徴用工問題と、むしろこの時期の日韓関係は問題が次々と発生し、悪化の一途をたどってきた。他方、日本における韓流ブームはこれら外交関係に無関係かのように進んできた。第2次韓流の東方神起やKARA、第3次韓流の中心であるBTS(防弾少年団)はその顕著な例である。

では、この一見矛盾して見える状況はどうして生まれたのだろうか。確認しなければならないのは、文化は否定的な効果を持っているのではないということだ。互いの文化を愛好し、旅行経験がある人が、両国関係に対しても好意的なのは各種調査でよく知られている。しかし問題は、日韓両国においてこのような人々は依然として少数派にすぎないことなのだ。

例えば最近、日本の「言論NPO」と韓国の「東アジア研究院(EAI)」が共同で行った調査によれば、韓国のポップカルチャーを愛好していると答えた日本人は36・1%、日本のポップカルチャーを愛好している韓国人はその約半分の18・5%にすぎない。日本国民の3分の1以上が韓国のポップカルチャーに親しんでいる、というのはすごい数字であるが、それでも3分の2近くは関心を有していない。他方、韓国における日本のポップカルチャーへの関心ははるかに低く、しかもその関心の57%はアニメと漫画に集中している。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナに大規模攻撃、西部テルノピリで25人死亡

ワールド

ウクライナに大規模攻撃、西部テルノピリで25人死亡

ワールド

エプスタイン文書、米司法省が30日以内に公開へ

ワールド

ロシア、米国との接触継続 ウクライナ巡る新たな進展
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 5
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 6
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 7
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 10
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story