コラム

ユン大統領の釈放と、ますます揺らぐ韓国法秩序への信頼

2025年03月18日(火)17時50分
韓国

ソウル市近郊の拘置所から釈放された尹(3月8日) KIM HONG-JIーREUTERS

<間もなく韓国の憲法裁判所がユン大統領の弾劾を認めるか否かの決定を下す。だが決定がどちらになっても、対立する「2つの民意」のうち一方がこれを認めることはない。断絶はあまりに深刻だ>

3月8日、昨年12月の戒厳令をめぐって内乱を首謀した罪で起訴され、拘束されていた韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が釈放された。ソウル中央地裁によれば、釈放理由は2つ。1つは検察による起訴が遅れ、拘束満了期間を過ぎていたこと。基本的なミスが起こった背景には、拘束期間の計算を「日付単位」と「時間単位」のどちらで行うべきか、という法的解釈の違いがあった。

もう1つは、内乱罪の捜査を行った「高位公職者犯罪捜査庁(公捜庁)」の捜査権に対する疑義である。裁判所は捜査権否定にまでは至らなかったものの、疑義がある以上、拘束を認めることはできない、と判断した。そして検察が即時抗告を断念した結果、尹は釈放された。


この司法判断の是非は専門的な法律解釈に関わるものであり、詳細をここで論じるのはやめる。だが、指摘しなければならないのは、この釈放は尹が直面している2つの裁判、つまり弾劾の是非をめぐる憲法裁判所の審査と、内乱罪に関わる刑事処罰について、彼の無罪を示すわけではないということだ。今回の釈放は、主として手続きに関わる法的瑕疵についてのもので、弾劾裁判や刑事罰の是非そのものに関する決定ではない。

とはいえ、それが今後の状況に影響を与えないか、といえばそうではない。なぜなら1月21日号の本コラムでも触れたように、この国の「法の支配」への信頼がさらに揺らいでいるからだ。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国特別検察官、尹前大統領の拘束令状請求 職権乱用

ワールド

ダライ・ラマ、「一介の仏教僧」として使命に注力 9

ワールド

台湾鴻海、第2四半期売上高は過去最高 地政学的・為

ワールド

BRICS財務相、IMF改革訴え 途上国の発言力強
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story