コラム

バイデン勝利で中東諸国が警戒する「第2のアラブの春」

2020年11月26日(木)18時15分

バイデンはトランプ外交を支離滅裂、悲惨な記録と酷評する。しかしアラブ諸国はそうは見ていない。オバマやバイデンは民主化を担う主体として同胞団を信頼するが、エジプトやサウジ、アラブ首長国連邦などは同胞団を「イスラム国」(IS)と同じテロ組織と見なす。親同胞団の人物がバイデン政権の要職に就けば、アラブの春の再来もあり得ると警戒するゆえんだ。11月にはサウジの高位聖職者評議会が改めて、同胞団は「テロ組織であり、統治者への反乱を奨励し、国家に混乱をもたらし、平和的共存を不安定化させる異常で逸脱した集団であり、世界中で多くの過激派やテロ組織の形成を促してきた」という声明を出した。

一方、同胞団支持者はバイデン政権誕生を待望し、エジプトで投獄されている同胞団員の釈放を期待する声も上がっている。

バイデンは人権や民主主義を普遍的価値とする理想主義を取るが、この考えは中東には必ずしもなじまない。オバマの理想主義は中東に大混乱とおびただしい数の死者をもたらした。バイデンがその過ちを繰り返さない保証はない。

<2020年12月1日号掲載>

プロフィール

飯山 陽

(いいやま・あかり)イスラム思想研究者。麗澤大学客員教授。東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。博士(東京大学)。主著に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『中東問題再考』(扶桑社BOOKS新書)。

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