コラム

嫌韓デモの現場で見た日本の底力

2013年08月17日(土)14時14分

今週のコラムニスト:レジス・アルノー

〔7月30日号掲載〕

 6月30日、私は最近話題になっている嫌韓デモに行ってみた。このデモは東京の新大久保で何年も前から、毎週日曜日に行われているものだ。私は不安を胸に家を出た。自分の身も心配だったが、新大久保の人々のことも、日本の対外イメージのことも心配だった。

 実は新大久保はサンフランシスコのチャイナタウンやパリの日本人街と同じような「観光スポット」だ。外国人にとって、新大久保のコリアンタウンを歩くことは伊勢丹新宿店の地階と同じくらい楽しさと驚きに満ちている。伊勢丹が日本がいかに洗練されているかを示しているとすれば、新大久保の街が示しているのは日本が外国人に対してフレンドリーで開かれた国であり、他国の文化が生き生きと存在できる国だということだ。

 だがデモのせいで、新大久保は日本が外国人にとっていかに不快な国になり得るかを象徴する場所となった。嫌韓デモの数百人の参加者は自らを愛国者だと考えているのだろうが、実際は日本の力をそいでいるに等しい。憎しみをまき散らすデモ隊の存在を許すのは日本の恥だ。

 新大久保で店を営む在日コリアンは、税金を払って日本政府の財政を潤している一方で誰の脅威にもなっていない。だが「朝鮮人を殺せ」と日本人の誰かが言えば、それは日本という国を自ら攻撃していることにほかならない。こうした発言はジャーナリストや一般の人々によって世界中に伝えられると考えていい。そして日本のイメージにも、尖閣問題や東京への五輪誘致における日本の立場にも悪影響を与えるだろう。アメリカやフランスも、外国人居住者や韓国系の自国民をきちんと守れない国の側になど、簡単に立ちはしないはずだ。

 私は不安を胸に家を出たと書いたが、帰宅したとき、私の心は喜びに満ちていた。在日の人々は決して嫌韓デモの挑発に乗らない。だからこそ約2500人の日本人が彼らを守るために自発的に集まり、嫌韓デモに反対するデモを行っている。また、警察は嫌韓デモ隊が新大久保の中心部に入ることを許さなかった。彼らは自らの任務を果たし、私にはジャーナリストの仕事をすることを許した。

 感動の瞬間を何度も目にした。反対デモの人々に「本当にありがとう」とささやいていた在日コリアンの姿もあった。普通のサラリーマンや学生、OLが一緒になって嫌韓デモ隊に立ち向かい、「差別反対!」と叫んでいた。私から見ればこの人たちこそ、真の愛国者だ。彼らは日本の名誉を守っていたのだから。

■健全な民主主義は日本の誇り

 このうち1人はフタミさんという法律を学ぶ学生で、以前から嫌韓デモへの抗議活動をしてきた。彼は多くの日本の若者が忘れている政治参加の尊さを身をもって示していた。「最初は10人しかいなくて、警察の車に守ってもらった。それが今では2500人だ」と彼は言う。

 警察は非常に緊張していたが、称賛に値する自制心を持って任に当たっていた。そして私の報道の自由も守ってくれた。道路を封鎖していた機動隊に私は、嫌韓デモ隊の話を聞くために非常線を抜けてもいいかと尋ねた。隊員たちは躊躇したが、上官が一喝した。「この人はジャーナリストなんだからすぐに通せ!」

 日本の文化の力、外国人居住者をおおらかに受け入れる姿勢、そしてアジアでは特に長く健全な民主主義の歴史は、この国が世界に誇れるものだ。私は新大久保でこのすべてを目の当たりにした。ますます専制的になりつつある中国の隣にあって、民主主義は日本に非常に有利な武器として働くだろう。

 6月30日の朝、私は外国人をめぐる状況が悪化したら自分は日本に住み続けられるだろうかと自問しながら家を出た。帰宅したとき、私は3人のわが子が日本国籍を持つことを誇りに思っていた。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

ニュース速報

ビジネス

ポンド2カ月ぶり高値、EU離脱通知で政府敗訴の見方

ワールド

英離脱最終合意は18年10月までに、EU側責任者が

ワールド

イタリア総選挙2月にも、内相が可能性示唆

ワールド

石油市場のリバランス、減産合意で早まる可能性=IE

MAGAZINE

特集:THE FUTURE OF WAR 未来の戦争

2016-12・13号(12/ 6発売)

AI、ドローン、ロボット兵士......進歩する軍事技術は 新時代の戦場と戦闘の姿をここまで変える

人気ランキング

  • 1

    トランプ-蔡英文電話会談ショック「戦争はこうして始まる」

  • 2

    インターポールも陥落、国際機関を囲い込む中国の思惑

  • 3

    トランプ氏、ツイッターで中国批判 為替・南シナ海めぐり

  • 4

    金正恩氏の核開発と「拷問・処刑」の相関関係

  • 5

    人民元、関税、南シナ海──トランプの対中批判はどこ…

  • 6

    トランプ・蔡英文電話会談は周到に準備されていた?

  • 7

    イギリス空軍、日本派遣の戦闘機を南シナ海へ 20年…

  • 8

    「トランプとプーチンとポピュリストの枢軸」が来年…

  • 9

    実録・昏酔強盗、警察も対応不能な驚きの「完全犯罪」

  • 10

    実録・昏酔強盗、警察も対応不能な驚きの「完全犯罪」

  • 1

    トランプ-蔡英文電話会談ショック「戦争はこうして始まる」

  • 2

    トランプ氏、ツイッターで中国批判 為替・南シナ海めぐり

  • 3

    イギリス空軍、日本派遣の戦闘機を南シナ海へ 20年には空母も

  • 4

    「3.9+5.1=9.0」が、どうして減点になるのか?

  • 5

    内モンゴル自治区の民主化団体が東京で連帯組織を結…

  • 6

    新卒採用で人生が決まる、日本は「希望格差」の国

  • 7

    インターポールも陥落、国際機関を囲い込む中国の思惑

  • 8

    東京は泊まりやすい? 一番の不満は「値段」じゃな…

  • 9

    偽ニュース問題、米大統領選は始まりに過ぎない?

  • 10

    「ドイツ版CIA」の情報部員はISISのスパイだ…

  • 1

    トランプファミリーの異常な「セレブ」生活

  • 2

    「トランプ勝利」世界に広がる驚き、嘆き、叫び

  • 3

    注目は午前10時のフロリダ、米大統領選の結果は何時に分かる?

  • 4

    68年ぶりの超特大スーパームーン、11月14日に:気に…

  • 5

    米大統領選、クリントンはまだ勝つ可能性がある──専…

  • 6

    トランプに熱狂する白人労働階級「ヒルビリー」の真実

  • 7

    トランプ勝利で日本はどうなる? 安保政策は発言通…

  • 8

    【敗戦の辞】トランプに完敗したメディアの「驕り」

  • 9

    安倍トランプ会談、トランプは本当に「信頼できる指…

  • 10

    「ハン・ソロとレイア姫」の不倫を女優本人が暴露

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

日本再発見 「五輪に向けて…外国人の本音を聞く」
リクルート
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

『ハリー・ポッター』魔法と冒険の20年

絶賛発売中!