コラム

「反韓」ヘイトスピーチを韓国人が慈しむ訳

2013年05月20日(月)09時00分

今週のコラムニスト:クォン・ヨンソク

[5月14日号掲載]

 僕の「第三の故郷」新宿・新大久保が3月末、東京いや日本で一番ホットな場所になった。韓流の聖地となったこの地で、「在日特権を許さない市民の会(在特会)」による韓国や北朝鮮、在日コリアンに対する排斥デモが行われた。さらにそれに対して差別反対を訴える反・反韓国デモも行われたのだ。狭い大久保通りを南北に挟んで対峙する彼らの様子は、まるで日本の38度線のようだった。

「嫌韓」は以前から存在した。だが、今回のデモはこれまでネットの中にとどまっていた人々が実際に姿を現し、韓国・朝鮮人に対して「たたき出せ」「殺せ」「ゴキブリ死ね」といったヘイトスピーチを繰り返した点が大きな特徴だ。その差別主義で原理主義的な行動は、平和で優しい日本のイメージとはおよそ懸け離れている。

 排斥デモに対抗して立ち上がった勇気ある市民は「レイシストをしばき隊」という、ちょっとこわもてな団体から「プラカ隊」「知らせ隊」といったソフトなノリの団体、さらに国会議員や弁護士、言論人まで初めて大きな広がりを見せた。

 とはいえ韓国で生まれ、日本で小学校に通い、その後は日本と韓国(とたまにロンドン)の間を行ったり来たりして生きてきた僕にとって、今回の騒ぎは実に「胸が痛い」事件だった。ただ嫌韓派を簡単に否定するのは、いくら韓国人とはいえ政治学者のすることじゃない。

 彼らの立場を考えてみた。まず理性ある嫌韓派に対して、僕が感謝していることを打ち明けたい。というのも、彼らの多くは「真実」には迫らなくとも、「事実」を根拠として韓国側の問題点やゆがみを指摘してくれるからだ。

 サッカー選手の軽率な行動、大統領の軽薄な言動、仏像盗難、日本製品不買運動の呼び掛け(まったく実行されていないが)......。嫌韓派の厳しいまなざしは、自国中心主義で有頂天になりがちな韓国に対する警告になる。「キモヨナ」や「ウリジナル」など、その造語センスはダジャレ派として敗北感を覚えるほどだ。

■韓国にもある「ひんしゅく団体」

 僕が驚いたのは、彼らが韓国を脅威と捉え、被害者意識と不信感を強く抱いていることだ。韓国人にとって、こういった感情は日本に対する自分たちの専売特許だった。日本の韓国に対する偏った認識は歴史と現状に対する理解不足ゆえだが、日本でこんな対韓認識が広がっているという事実を韓国側も直視すべきだ。

 実は韓国にも日本の在特会と同じようにひんしゅくを買っている団体がある。その名は「オボイ(父母)連合」。とにかく日本や北朝鮮を批判する韓国の右翼だが、その特徴は年齢層にある。社会でも家庭でもその存在感を失い、行き場を失った老人が生きがいを求めて参加しているのだ。この団体はかなり過激で、若者と平気で乱闘に及ぶ。

 被害者意識を持ち、反日あるいは嫌韓を生きがいにする人の心を変えるのは困難なことだ。だったら僕は思う存分嫌ってくれていい、と言いたい。僕のことも「危険な朝鮮人」と罵倒してくれていい。以前はネットでの誹謗中傷や嫌韓派の存在が気味悪かったが、最近は慈しみの念さえ覚えるようになった。嫌うからには、それだけの理由があるのだろう。

「ネトウヨ」も実際会ってみたら、案外80年代アイドルやニューミュージックネタで盛り上がるかもしれない。大人になったのか非力になったのか分からないが、最近は自分を嫌う相手を同じように嫌うのはバカらしいと思うようになった。

 反韓デモは今も続く。僕の青春だった尾崎豊がライブで言ったものだ。自分を嫌いな奴がいるから自分は頑張れる。だから、いま一番心から憎いと思っている奴のために歌おうと。ならば僕は喜納昌吉の「花」の替え歌をささげよう。

「♪嫌いなさい~罵りなさい~いつの日かいつの日か気が晴れますように♪」

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

三井物産、4─12月期の純利益6.2%減 JA三井

ビジネス

マスク氏のスペースXがxAI買収、宇宙・AI統合 

ビジネス

米テスラ、SUV「モデルY」に新タイプ投入 4万1

ビジネス

デンソー、通期純利益予想を下方修正 米関税や部材高
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗り物から「勝手に退出」する客の映像にSNS批判殺到
  • 2
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れるアメリカ」に向き合う「日本の戦略」とは?
  • 3
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 4
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」…
  • 7
    エプスタイン文書追加公開...ラトニック商務長官、ケ…
  • 8
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 9
    世界初、太陽光だけで走る完全自己充電バイク...イタ…
  • 10
    共和党の牙城が崩れた? テキサス州で民主党が数十…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story