コラム

世界最大で最も珍しい「謎」のカットダイヤモンドが競売にかけられる

2022年02月01日(火)11時25分
エニグマ

米カリフォルニア州ビバリーヒルズで撮影された「エニグマ」 (1月26日) Mario Anzuoni-REUTERS

<555.55カラットの黒ダイヤ「エニグマ」が、「宝石以上の存在」と言われる理由とは?>

国際競売会社のサザビーズは、2月3~9日に世界最大のカット済みダイヤモンドのオークションを行うと発表しました。

このダイヤモンドは555.55カラット(111.11グラム)の黒色のダイヤモンドで、「エニグマ(The Enigma;謎)」と名付けられています。約20年前から存在は知られていましたが、ずっと個人に所有されていました。競売に先駆けてドバイ、ロサンゼルス、ロンドンで公開されますが、このダイヤモンドが公開されるのも販売されるのも、今回が初めてです。

エニグマは重量と起源という2つの理由から「歴代で最も珍しいダイヤモンドである」と言っても過言ではありません。

最も輝くよう計算されたカットデザイン

まず、原石からカットと研磨をした後の555.55カラットという重さは、歴代のダイヤモンドで最重量です。つまりエニグマは世界最大のカット済みダイヤモンドということになります。これまでの世界最大は、545.67カラットの「ザ・ゴールデン・ジュビリー」でした。

ザ・ゴールデン・ジュビリーは1985年に南アフリカで発掘された755.5カラットの原石からカットしたもので、オレンジ色がかった濃い茶色をしています。原石から取り出す際は、ダイヤモンド研磨師であるガビ・トルコフスキー氏が新しく考案したファイアー・ローズ・クッション・カットを施し、それまで世界最大だった「カリナンⅠ」よりも重くなるように注意深く磨かれました。約3年かけて研磨し終わると、カリナンⅠよりも15.37カラット(約3グラム)重くすることに成功しました。その後、1997年にタイのラーマ9世にゴールデン・ジュビリー(即位50周年)記念として献上されました。

ダイヤモンドのカットと研磨は、自由にデザインできるわけではありません。ダイヤモンドには割れやすい方向があるので、通常はそれを活かして原石から最大限に宝石が取り出せるようにカットします。

さらに、ダイヤモンドは輝かなければ価値がありません。

たとえば、婚約指輪用のダイヤモンドでおなじみのラウンド・ブリリアント・カットは、ザ・ゴールデン・ジュビリーをカットしたガビ・トルコフスキー氏の親族であるマルセル・トルコフスキー氏が1919年に考案したものです。ダイヤモンドを58面にカットして、上面から入った光は内部で反射して、すべての光が上面に戻るように設計されています。

世界最大級のカット済みダイヤモンドを意図して狙う場合は、原石からの歩留まりと割れやすい方向、輝きの強さのバランスを取りながらカットデザインを決めます。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英CPI、4月前年比+2.3%で予想上回る 利下げ

ビジネス

独連銀、インフレリスクを警告 賃金が予想以上に上昇

ワールド

中国、ロッキードなど米軍関連企業12社と幹部に制裁

ワールド

イスラエル軍、ラファ中心部近くへ進軍 中部でも空爆
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の大群、キャンパーが撮影した「トラウマ映像」にネット戦慄

  • 4

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 5

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 6

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    「韓国は詐欺大国」の事情とは

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 10

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story