コラム

Microsoftがゲーム大手を7.8兆円で買収。メタバースにその価値はあるか

2022年01月25日(火)15時38分

米IT評論家のShelly Palmer氏によると、こうしたメタバースからの収入だけで生活する若者が増えているという。こうした若者は、定職につかずにお金が必要なときだけメタバースで稼ぐのだという。同氏によると、こうしたライフスタイルは「ねそべり(lying flat)族」と呼ばれ始めているのだという。

MetaのCEO、Mark Zuckerberg氏の思い描くメタバースの原型が、ゲーム系メタバースの中には既に存在するわけだ。

だからと言って、7兆8000億円の投資の価値のある領域かというと、現時点ではそんなことはない。

ではなぜMicosoftはこれほどまでに巨額の投資をしたのか。私は短期的目的と長期的目的の2つの意味での先行投資だと思う。

短期的目的は、やはりゲームプラットフォームの独占だ。

テレビという娯楽の形が下火になり、ネット上での映画、音楽、ゲームといった娯楽へと若者の軸足が移動している。

映画やドラマはNetflixに代表されるようなコンテンツプラットフォームが力をつけてきている。各国の製作チームに膨大な資金を与えて最高の作品を作る。作った作品は、翻訳字幕をつけて世界中に配信する。世界中に配信するので、膨大な製作費をかけてもペイする。世界中に配信できるプラットフォームを持っていくので、いい作品には惜しげも無く投資できるわけだ。

映画コンテンツは資金力勝負

国内にしか視聴者がいないテレビ局には到底真似できない、資金力が物を言うフェーズに入っているわけだ。

資金力勝負のフェーズであるならば、今最も資金力があるのはだれだろう。

Google、Apple、Amazon、Microsoft、Facebookだ、とニューヨーク大学のScott Gallaway教授は指摘する。同教授著「Post Corona」によると、コロナ禍の中、株価を上げているのは、テック大手のみ。2020年の1月から8月までの約半年で、Amazonは時価総額が約6240億ドル増加し、Appleは5700億ドル増加した。両社の時価総額増加分だけで、Disney、Netflix、AT&T、Comcastの時価総額を合わせた額と同等だという。つまり半年分の時価総額の伸びで、Disney、Netflixを買収できるということになる。

Amazon、Appleともに映画、ドラマのプラットフォーム事業に本腰を入れ始めており、Netflixは非常に危ない立ち位置にいると同教授は指摘している。

今は映画プラットフォームといえば、NetflixのほかにもHuluなどいくつもあるが、コンテンツを買収するための資金力の勝負のフェーズに入っているので、いずれAmazon、Appleの天下になるというのがGalloway教授の読みだ。

勝者が決まるまでは、コンテンツは競合との間で値段が吊り上がるが、勝者が決まれば、コンテンツコストは落ち着いてくる。また娯楽は視聴者の耳目を集めるので、そこから物販などの収益源につなげていくことも可能。この時点での資金力の戦いが終われば、しっかりと収益を上げることのできる未来が待っているわけだ。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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