コラム

AIが進化するなら人間も進化しなきゃ──Transformative Technology Conferenceに行ってきた

2018年11月15日(木)14時00分

111502yukawa.jpgwww.transtechlab.org

つまりtransformative technologyは、人々を幸福にするだけでなく、人格面で人類をさらに進化させるための技術、ということになる。人類を次のフェーズにトランスフォームする技術というわけだ。

AIのように急速に進化するテクノロジーは、人類を幸せにすることも、地球を破滅に導くこともできる、諸刃の剣だ言われている。使う側の人間が、恐れにまみれて自己中心的であれば、地球の破滅は免れないだろう。そうならないためにも、使う側の人間が人格的に進化していく必要がある。transformative technologyはそのための技術なのだろう。

しかしそうした社会的意義だけではなく、transformative technologyはビジネス面でも有望な技術だという。

主催者たちの試算によると、市場規模は3兆ドルにも膨れ上がるという。人を幸せにするための技術的分野という定義にすれば、医療から教育、運動まで、ありとあらゆる産業を含むことができるので、当然巨大市場ということになる。なので、この市場規模資産は、あまり意味がないと思う。大事なのは、消費者が心身の健康のためにより多くのお金を使う傾向にあるのかどうか。

主催者たちは、特に若い世代の間に心身の幸福を重視する傾向が強まっていると主張している。例えば、米国の30代は、可処分所得の1/4を心身の健康のために費やしているという。また20代と30代の69%が健康のためのウェアラブル端末を持っているし、大学生の60%は精神的助けを求めることは強さの証だと感じているとしている。

確かに自分の経験から言っても、先進国の若者の価値観は大きく変化しているようには思う。ただだからと言ってtransformative technologyが、急成長の約束された市場であるかどうか、僕には分からない。若者がウエアラブル端末を持っているという話ぐらいでは、根拠が弱いように思う。このページの最後に、今日のtransformative technologyを代表するようなデバイスやサービス、アプリの一覧のスライドを添付しておく。興味のある方は、これらの中に社会を大きく変えるようなものがあるかどうか、調べていただきたい。少なくともカンファレンスで展示されていた製品やサービスで、僕を驚愕させたものは1つもなかった。

一方で、同カンファレンスでの神経科学などの研究者による発表の中には、驚くような話が幾つもあった。AI、機械学習の急速な進化が、自然科学、社会科学ともに、大きく進化させていることがよく分かった。こうした研究成果は、いずれビジネスの現場に降りてきて、産業界や社会を一変させることになると思う。そういう意味において、transformative technologyは世界を変える動きになると思う。これからが期待される領域だと思う。

これから何回かに渡って、カンファレンスで発表のあった研究成果の幾つかをAI新聞上で取り上げ、transformative technologyの今後を占っていきたいと思う。

yukawa181115.jpgwww.transtechlab.org

【著者からのお知らせ】少人数制勉強会TheWave湯川塾47期は「ティール型からDAO型へ ブロックチェーン技術が変える企業組織、仕事の未来」というテーマで開催します。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

クックFRB理事の弁護団、住宅ローン詐欺疑惑に反論

ビジネス

日経平均は続落で寄り付く、5万円割れ 米株安の流れ

ワールド

国連安保理、トランプ氏のガザ計画支持する米決議案を

ビジネス

米ボーイング、エミレーツから380億ドルの受注 ド
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story