コラム

アマゾン破竹の勢いと、忍び寄る独禁法の影

2017年08月23日(水)10時16分

そしてアマゾンはメディアの会社でもある。音楽聴き放題のアマゾンミュージック、映画・ドラマ見放題のアマゾンビデオなどのサービスは、アマゾンのプライム会員なら誰でも無料で利用できる。プライム会員は全米で約8500万人。米国の半数から2/3の世帯がプライム会員だという推計がある。地上波が衰退する中で、アマゾンは一大メディア企業になりつつあるわけだ。映画祭での映画放映権の買い付けでは、タイムワーナーなど老舗メディア企業を差し置いて、最近ではアマゾンが競り落とすことが多いようだ。

ハードウェアのメーカーでもある。スマートフォンの次の花形デバイスといわれるスマートスピーカーでは、Amazon Echoが爆発的な売れ行きを維持している。Echoと連携するスマートホームなどのアプリ、デバイスの数は今年6月に1万5000を超えた。一方で競合するGoogleのスマートスピーカーGoogle Homeの連携アプリ、デバイスの数はわずか378。MicrosoftのAI「Cortana」に至っては、65しかない。米国のスマートホーム機器市場の支配力は、アマゾンの手中に落ちたと言ってもいいだろう。

参入の噂だけで、競合企業の株価が下落

大胆な戦略での快進撃が続くアマゾン。もはや無敵の状態だ。そしてこれまでの常識にとらわれない動きをするので、次にどの領域に参入するのか、誰も予測できない。

高級食材スーパーのWholeFoodsを137億ドルで買収する計画が6月に発表されたが、この買収を予測した投資家はほとんどいなかった。買収の本当の目的は何なのか。いまだに米国のニュースサイト上で議論されているのを見かけることがある。

【参考記事】アマゾンのホールフーズ買収は止めるべきか

ただ株式市場は、この買収を歓迎。アマゾンの株価は134億ドルも上昇した。買収計画を発表しただけで買収金額のほぼ全額を、株価の上昇によって手にした形だ。

発表文だけで自社の株価を上げることもできれば、参入の噂が競合する企業の株価を下げることもある。

今年1月にアマゾンが自動車部品のメーカーと契約を結んだらしいという報道があったときは、自動車部品を取り扱う小売大手のAutozoneの株価が5.1%下落。同様にAdvance Auto Parts社の株価は4.2%、O7Reilly Automotive社の株価は4%、Genuine Parts社の株価は3.7%、それぞれ下落した。

7月に不動産エージェントを紹介するページがアマゾンのサイト上に一時的に表示されたという噂がネット上で流れたときには、不動産業者紹介サイトのZillow社の株価が5.5%下落、翌日にはさらに5.9%下落した。

ニューヨーク大学のScott Galloway教授は、「今のアマゾンは、プレス発表だけで、アメリカのほぼすべての企業の株価を下げることができる」と語っている。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米家計・銀行・企業の財務状況は概ね良好=クックFR

ワールド

ガザ南部、医療機関向け燃料あと3日で枯渇 WHOが

ワールド

米、対イスラエル弾薬供給一時停止 ラファ侵攻計画踏

ビジネス

米経済の減速必要、インフレ率2%回帰に向け=ボスト
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story