コラム

AIの新たな主戦場、チャットボットの破壊力

2016年09月13日(火)16時09分

 今のチャットボットは、ウェブサイトやモバイルアプリでのユーザーとのやり取りを対話風に見せかけているものが多い。しかしグループチャットは、サイトやアプリでは存在しえなかったコミュニケーションの形。グループチャットで、チャットボットは企業と消費者の対話を、今までにない段階にまで引き上げることになる。

 中里氏はさらにsiriのようなタスク達成型のチャットボットと、りんなのような雑談型のチャットボットが組み合わさってもおもしろいかもしれない、と指摘する。2体のチャットボット同士が会話している中に人間が加わったときに、人間はどのような心理状態になるのだろうか。ロボット工学の権威、大阪大学の石黒浩教授によると、2体のロボットを使った実験では、2体の間で話が通じていると、それを理解できなけば人間のほうが弱気になるのだとか。

 この現象を利用して、バーチャルリアリティの仮想空間の中にチャットボットを搭載したアバターを2体登場させれば、仮想空間に入ったユーザーは仮想空間がより一層リアルに感じるようになるかもしれない。

 中里氏の話を聞いて、僕自身もいろいろアイデアが浮かんできた。

 例えば、チャットボットのAIを搭載したバーチャル秘書ロボットが、職場内の対話を解析し、業績との相関関係を分析するようになれば、上司がどのように部下に接すれば部下のやる気が出るのかなどといったことも、科学的に明らかになるかもしれない。

 家庭内ロボットが、国内の家庭内の対話内容を集計、比較することで、親のどういった接し方が子供の教育にどう影響するのかも分かるかもしれない。

「部下との接し方」「子供の教育法」に関する本が山のように出版されているが、ほとんどが個人の経験をもとにした対人指南書にすぎない。しかし将来チャットボットが賢くなると、対人指南書がデータをベースにした科学的なものになるかもしれないわけだ。

あらゆるモノに知能が載る時代へ

 中里氏は、さらにチャットボットがいろいろなデバイスに搭載される可能性があると指摘する。

 Amazonのスピーカー型バーチャルエージェント「 Echo」が米国で大旋風を巻き起こしているが、雑談型チャットボットのAIを搭載したスピーカー型バーチャルエージェントが完成すれば、Echoに追いつき、追い越すことも可能かもしれない。

 かわいい形状のロボットやぬいぐるみに、チャットボットエンジンを搭載してもおもしろそうだ。

 さらには冷蔵庫や、テレビ、家具などにも、いろいろなセンサーやチャットボットエンジンが搭載されれば、すべてのモノのインテリジェント化が進む。われわれの住む世界は、ずいぶんと違ったものになる。そうした時代のキーテクノロジーの1つになるのが、チャットボットだと思う。今はまだその可能性に気づいている人は少ないが、この小川の流れが、いずれ大きなテクノロジーの潮流になるのは、間違いない。断言してもいい。


2歩先の未来を創る少人数制勉強会TheWave湯川塾主宰
有料オンラインサロン

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

神田財務官、介入有無コメントせず 過度な変動「看過

ワールド

タイ内閣改造、財務相に前証取会長 外相は辞任

ワールド

中国主席、仏・セルビア・ハンガリー訪問へ 5年ぶり

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story