コラム

日本を挑発し続ける中国「狼の乳」世代は被害者史観で戦う

2020年12月19日(土)12時30分

そして、典型的な「狼の乳」世代の代表格が王である。彼は文化大革命最中の1969年に16歳で黒竜江省の農村部に下放され、生産建設兵団という屯田兵団の一員となった。文革が勃発した時は14歳で、78年に大学に入るまでまともな教育を受けていなかった。彼の世代は「工農兵大学生」と称され、学力よりも共産党への忠誠が優先された者だけが進学できた時代である。

王だけでなく、陝西省北部の黄土高原に下放されていた習近平(シー・チンピン)国家主席も例外ではない。王も習もその下放先で農村部の極貧生活を体験したし、大人になってからは自国と世界との大差についても認識したことだろう。問題は、自国と世界との巨大な差異と発展程度の違いを、冷静に客観的に分析するのではなく、落ちこぼれた責任は中国以外にある、との被害者史観で武装したことである。

中国の停滞を知れば知るほど、「搾取」し、「侵略」した外国に対する憎しみが一層増して「狼の乳」の濃度も上がる。だから彼らは戦い続ける。「尖閣は中国の領土で、日本の偽装漁船が敏感な海域に入ってきている」と主客転倒の挑発も、「戦狼」思想の発露にすぎない。

<2020年12月22日号掲載>

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プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

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