コラム

台湾と中国、コロナが浮き彫りにした2つの「中国語政権」の実像

2020年05月27日(水)09時40分

2期目の就任式に臨む蔡英文総統(5月20日、台北) MAKOTO LIN-TAIWAN PRESIDENTIAL OFFICE-HANDOUT-REUTERS

<対コロナの成功モデルを示したにもかかわらず国際社会で孤立させられる台湾と、強引な封じ込めを早くも自画自賛する中国ーー相容れない両国が政治の季節に>

台湾と中華人民共和国──。この2つの中国語圏の政権は今、重大な転機に差し掛かっている。前者は5月20日、今年1月に再選した蔡英文(ツァイ・インウエン)総統の就任式があり、後者は5月22日に当初の予定から2カ月半遅れで全国人民代表大会を開催した。どちらも相手を意識した政治の季節に入ったのだ。

蔡は中国語圏で民意によって選ばれた初めての女性指導者である。台湾先住民の血を引く彼女は独立志向の強い民進党を率いて政権を奪還した後、台湾を再び世界史の大海原へと導いてきた。台湾の歴史を海峡対岸の中国との関係の中でだけ位置付けるのではなく、15世紀以降の大航海時代の主役たちとの国際関係を重視するという歴史観だ。

スペインとポルトガル、そして日本。西洋の航海者から「麗しき島(フォルモサ)」と呼ばれていた台湾は決して中国が言うところの「化外(けがい)の地」ではなく、最初から世界史の一員だった、という見解はすっかり定着してきた。歴史の大転換である。

台湾の政界と日常生活の中で、中国語が最大の公用語となっているのは事実である。そのことはオーストラリアとニュージーランドにおいて英語が用いられているのと同じ性質を有している。英語が公用語だからといって南半球の2国を「英国」だと誰も思わないのと同じである。

事実上の独立国家である台湾を自国の一部だと主張しているのは、中国だ。この両者は人類が予期せぬ危機に直面したとき、全く異なる対応を見せた。

中国・武漢市を発生源とする新型コロナウイルスが猖獗(しょうけつ)を極めだした際に、台湾はいち早く対岸からの人的流入を防ぎ、旧宗主国の日本から100年前に学んだ疫病対策をさらにフル稼働させた(その日本は一貫してコロナ対策で無策ぶりを呈し、朝鮮半島も含めた元植民地から冷たい目で見られているのも事実だが)。

台湾はそれほど成熟した民主主義国家となっているにもかかわらず、WHO(世界保健機関)をはじめとした国際社会から遮断され続けている。実に理不尽である。

習近平(シー・チンピン)国家主席の中国は、一党独裁政権とその体制を守ろうとして、感染の拡大を隠蔽し、世界各国への情報伝達にも不熱心だった。その結果パンデミック(世界的な大流行)を引き起こし、世界全体で感染者数は500万を、死者数は30万人を超えた。各国に防御体制の不備があったとしても、中国に最大の責任があると指摘するのは不条理なことではない。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国大手銀行、高利回り預金商品を削減 利益率への圧

ワールド

米、非欧州19カ国出身者の全移民申請を一時停止

ワールド

中国の検閲当局、不動産市場の「悲観論」投稿取り締ま

ワールド

豪のSNS年齢制限、ユーチューブも「順守」表明
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 5
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 8
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 9
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 10
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story