コラム

中国「一帯一路」構想から日本が手を引くべき3つの理由

2018年06月30日(土)14時40分

中国が権益を押さえたスリランカのハンバントタ港 Atul Loke-Bloomberg/GETTY IMAGES

<参加する沿線国は借金漬けになり、インド、ロシアは神経を尖らす――前途なき「一帯一路」にのめり込む危うさ>

日本政府は最近、中国の経済圏構想「一帯一路」に官民一体で協力する姿勢を強めている。

6月7日に政府は「インフラシステム輸出戦略」を改定し、第三国へのインフラ輸出に当たって日中の民間協力を提唱。日本の積極姿勢に対し、中国の耿爽(コン・ショアン)報道官は支持を表明した。

問題は一帯一路の前途が暗く、失敗の可能性が高いことだ。日本は中国の覇権主義的拡張政策から距離を取ったほうがいい。その理由を以下に述べてみよう。

第1に、一帯一路に対し他の地域大国が必ずしも支持を表明していないことだ。6月10日に中国の青島で開かれた上海協力機構(SCO)首脳会議で、習近平(シー・チンピン)国家主席は加盟国のリーダーたちから支持表明を獲得して結束を演じようと腐心。だがかねて反対姿勢を崩さなかったインドは支持を表明しなかった。

ロシアはどうか。中国が外国元首に初めて与えた「友誼勲章」を胸にSCO会議を後にしたプーチン大統領。その翌日に開催したのが、ユーラシア経済同盟に加わる旧ソ連5カ国の代表による集団安全保障会議だったのが象徴的だ。

同盟には旧ソ連圏の権益を守り、中国の進出を防ごうとの共通した狙いがある。特にプーチンがロシアの裏庭と見なす中央アジアにおいて、一帯一路の伸長と各国への食い込みに神経をとがらせている。

時を同じくして、ロシアは中国のミネラルウオーター企業が極東の水がめ、バイカル湖から飲料水を採取するのを禁じる措置を取った。ロシア人の流出が進むシベリアに大挙して進出してくる中国系企業は、環境を破壊するだけでなく政治的な脅威と化しつつもある。

歴史的に中国は「シベリアから樺太までの広大な領土を帝政ロシアに奪われた」と思い込んできた。いつかは「失地回復」しようという野心にロシアは気付いている。

亡命ウイグル人の弾圧に

第2に、日本は東シナ海の自国領を守り、中東産石油の安定供給を確保するため、インドやアメリカ、オーストラリアなどを加えた「自由で開かれたインド太平洋戦略」を唱えている。日本が一帯一路に反対するインドと戦略的に組もうとしながら、裏では中国に笑顔を見せれば、国際社会から批判されるだろう。そうした日本の無節操は、民主主義や人権尊重の思想を共有する国との関係を強化しようという、従来の「価値観外交」から逸脱する。

第3に、日本は自らの積極的な関与によって、一帯一路の不透明な部分を改善できる、と過信している。中国は既に海でも陸でも、一帯一路に巻き込まれた小国を借金漬けにし、中国政府の呪縛から離脱できないようにしてきた。

港湾整備に巨額の融資が投入され、返済のめどが立たなくなったスリランカは仕方なく港湾権益を中国に99年間の契約で譲渡した。ラオスやタジキスタン、モンゴルなど陸の沿線国も多額の借金を抱え、中国の息が掛かった商人が政治に介入し始めた。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

IEA、過去最大4億バレルの備蓄放出を勧告 全会一

ワールド

イラン、W杯「参加できない」 最高指導者殺害で=ス

ワールド

トランプ氏、イランの標的「ほぼ残らず」 戦闘近く終

ビジネス

米CPI、2月前年比+2.4%上昇 3月のインフレ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 2
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃に支持が広がるのか
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 5
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 6
    「邪悪な魔女」はアメリカの歴史そのもの...歌と魔法…
  • 7
    イランがドバイ国際空港にドローン攻撃...爆発の瞬間…
  • 8
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 9
    ホルムズ封鎖で中国動く、イランと直接協議へ
  • 10
    「IKEAも動いた...」ネグレクトされた子猿パンチと「…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 5
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 6
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 7
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 8
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 9
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 10
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story