コラム

中国から消えた「尖閣」地図、無印良品を襲った焚書の炎

2018年02月17日(土)15時00分

中国外務省の会見場の地図にもあの島はない Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<日本企業のカタログに「釣魚島」がないと廃棄処分。かつての中国の地図も毛沢東も「日本領」と認めていたが......>

中国に進出し、世界的人気を誇る生活雑貨「無印良品」。このブランドを展開する日本企業「良品計画」が中国政府から執拗な圧力を受けていることが1月に明らかとなった。現地で配布していた家具カタログ内の地図に、中国が主張する「わが国の固有の領土、釣魚島」が記されていないなどと、因縁をつけられたのだ。同社は仕方なくカタログを廃棄した。

日本の菅義偉官房長官は記者会見で、「尖閣諸島が日本の固有の領土であることは歴史的にも国際法上も明らかだ」と強調。「中国側の独自の主張に基づく措置は全く受け入れられない」と、中国に事実関係の確認と説明を申し入れたという。

外国作成の地図に、ある地域や島が「中国の固有の領土」として描かれているか否かで、嫌がらせが行われたのは今回が初めてではない。中国にある日本人学校で使う日本の教科書の地図にも、当局は数年前から目を光らせている。最初は台湾、次は南シナ海、さらに沖縄県尖閣諸島にも触手を伸ばしてきた。

中国は「外国が紙上で中国の領土を分裂させている」と非難する。だが、中国自身が他国の教科書や企業のカタログ、ひいては内政にも干渉するのは「正義だから構わない」のだろうか。

古書街を襲った海洋進出

そもそも大陸国家である中国は海の世界に関しては、近年まで無関心だった。私の手元に、58年11月に中国国家地図出版社から出された『世界地図集』がある。現在の中国が頑として「釣魚島」と呼び「尖閣」という表現を禁止しているのに対し、58年の権威ある地図はご丁寧にも日本式に「魚釣島と尖閣諸島」と表記。さらに島々の南西沖に国境線を引き、「琉球群島に属する」と明白に記している。

しかも、この地図の前書きでは「社会主義の兄、ソ連の先進的な製図と知識を吸収して作成した」と明記。中国だけでなく、社会主義の親分ソ連も同島を日本領と認めていたわけだ。

出版と結社の自由が実質的にない中国では、万事が指導者の意思で決定。まさに指導者の発言そのものが法律といえる。

その意味で、64年1月28日付の共産党機関紙・人民日報の記事は興味深い。「中国人民の偉大な領袖」「世界革命の指導者」毛沢東が日本の日中友好協会副会長、日本アジア・アフリカ連携委員会の常務理事、それに日本共産党機関紙・アカハタ(現・赤旗)の北京特派員らに接見した席上でのことだ。

毛は「最近、日本全国で大規模な大衆運動が起こり、アメリカ帝国主義の核搭載戦闘機と潜水艦の配備に反対している」と、日本の反米運動を評価。その上で、「駐留米軍を追い出し、米軍基地を撤廃して、日本の領土沖縄を返還するよう求めている。こうした日本人民の正義の闘争を中国人民は断固として支持する」と述べたのだ。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story