コラム

習近平「治国思想」の元ネタは毛沢東の暴力革命論にあり

2017年10月13日(金)11時15分

今年の共産党大会で習近平は毛沢東の亡霊をよみがえらせる? Bettmann/GETTY IMAGES

<江沢民や胡錦濤の旧思想を投げ捨てて打ち出す習近平の新思想の本質は、銃口と裏切りと犠牲者に血塗られた暴君の復活なのか>

来る10月18日に、中国共産党第19回全国大会が開催される。中国の冠婚葬祭で使われる民間の陰暦(農暦)カレンダーでは、その日は大安吉日だ。

胡錦濤(フー・チンタオ)・温家宝(ウエン・チアパオ)前政権のお抱え占い師と言われた人物に数年前、首都・北京で会ったことがある。「共産党は宗教を完全に否定したって? そんなことはない。建国後の党大会は全て大安吉日に開かれている」

なるほど、「宗教はアヘン」として国民に信教の自由を制限しながら、権力者たちは一党独裁体制が千年も万年も続くよう鬼神にまですがっていたのか。

今回の党大会では、党総書記である習近平(シー・チンピン)国家主席の「治国思想」が打ち出せるかどうかが、大きな論点となっているようだ。これまで党の指導思想として、先代の胡主席は「科学的発展観」を掲げ、経済成長万能主義を排し、社会調和と環境保全にも配慮した持続的均衡発展を重視した。

その前の江沢民(チアン・ツォーミン)主席も「3つの代表」論を打ち出し、共産党は「先進的生産力の発展」「先進的文化の進路」「広範な人民の根本利益」の3つを代表しなければならないという仮説を唱えた。

習は、そのどちらにも満足しないどころか、「建国の父」と位置付けられている暴君毛沢東と並びたいという野心を抱いている。では、「毛沢東思想」とは何だったのか。

その本質はまさに暴力革命論だ。中華人民共和国をつくった以上、建国の軌跡を語るのが新国家にとって最も基本的な思想のよりどころとなる。毛は「政権は銃口より誕生する」と暴力闘争を信念とし、そのとおりに歩んできた。「農村から都市を包囲する」という戦略によって、湖南省の農村出身の毛は華やかな大都会の北京に入城し、中華帝国の玉座に座った。

毛は追随する無学の農民蜂起軍に常に分かりやすい言葉で語り掛け鼓舞した。そうした演説は性的な表現に満ち、暴力をあからさまに扇動したものだった。「地主階級を打ち倒して、脚で踏んづけよう。彼らの妻や妾たちの柔らかいベッドの上で寝そべってみよう」。

これ1972年に書かれた「湖南農民運動考察報告」の中の有名な一節で、中国で最も愛されている言葉の1つだ。

農民蜂起軍を率いて都市に乱入して「柔らかいベッド」の支配者となる――古来「革命」と呼ばれる王朝交代では、歴代の新皇帝は追随者の農民に論功行賞として必ず土地を分け与えた。だが毛は彼を支えた農民を裏切った点で単なる農民蜂起指導者でなく、共産主義革命家として評価されている。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story