コラム

森喜朗会長はなぜ東京オリンピックに君臨するのか

2021年02月06日(土)19時33分

森会長の日経新聞「私の履歴書」を以前読んだことがあるが、相手の懐に飛び込んで政治的に対立していた人間関係を調整したというエピソードが延々と続く。複雑化した近代オリンピック開催も、IOC、アスリート、招致都市、スポンサー企業、放送局等の複雑な利害調整が重要であり、IOCも体質的には、欧州貴族の密室文化を色濃く残す。森会長の昭和の政治家としての密室での利害調整能力が、この期に及んで活きているというところだろうか。

また、スポーツ関係者、特に競技人口の少ないマイナースポーツ関係者は、誰も支援する政治家がいなかった時にも様々な便宜を図ってもらったと森会長に恩義を感じている人も多いと聞く。

「皆さんが、邪魔だと言われれば、老害、粗大ごみになったのかもしれないから、そうしたら掃いてもらえればいいんじゃないですか」

森のこの逆ギレともとれる言葉の裏には、あと半年、IOCと東京都/日本政府を相手取って開催に向けた交渉ができる人間、各競技団体に押さえが効く人間が自分以外に組織委員会にいるのかという強い自負が伺える。

本来であれば、オリンピック憲章にも反する女性蔑視発言はIOCとしても大いに問題視すべきだが、異例とも言える速さで「問題は終わった」と幕引きを図っている。開幕に向けてこれ以上の運営上の混乱を避けたいIOCの危機感と、カウンターパートナーとしての森会長への個人的な信頼がバッハ会長にあるのだろう。

様々な思いを胸に秘めた人たちのためにも開催へ努力を

2013年の招致のタイミングに戻り、東京オリンピック開催を望むかと聞かれたとしたら、私は必要ないと答えると思う。予算がかかり過ぎであり、だからこそ東京都も「オリンピック予算見直し」調査を実施した。

但しこの段階に及んで、組織委員会会長の前時代的女性差別発言とワクチンの確保と摂取展開の組織能力の欠如から、国民の支持を得られず中止を余儀なくされたとなると当事者の国民としても悲しすぎる。

1兆円以上の税金を投入しつつも五輪大会には使用されず一部のスポーツ関係者しか使わないハコモノ建築群が作られ、8年間オリンピックが開催されないことに対する世界中のアスリートの怨嗟の声だけが日本人に負のレガシーとして残される。

コロナ禍でインバウンド観光などの経済効果は制限されるだろうが、それでも期待された経済効果がゼロになるより、コロナ禍で弱った日本経済にとって少しでもプラスになったほうが良い。

プロフィール

安川新一郎

投資家、Great Journey LLC代表、Well-Being for PlanetEarth財団理事。日米マッキンゼー、ソフトバンク社長室長/執行役員、東京都顧問、大阪府市特別参与、内閣官房CIO補佐官 @yasukaw
noteで<安川新一郎 (コンテクスター「構造と文脈で世界はシンプルに理解できる」)>を連載中

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、義理の娘を引退上院議員後任候補に起用の

ワールド

ロシア、米特使の「時間稼ぎ」発言一蹴 合意事項全て

ワールド

米上院、州独自のAI規制導入禁止条項を減税・歳出法

ワールド

トランプ氏、ハマスに60日間のガザ停戦「最終提案」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story