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山本彌生|アメリカ

注目の新語『静かな退職』、それとも『ハッスル・カルチャーの継続』? ポートランド・アスリートの選択

U of O field Courtesy of University of Oregon.jpgPhoto | Courtesy University of Oregon

| 静かな退職=Quiet quitting

この『静かな退職』と訳される言葉。実際に退職するわけでは無いという、ちょっと意味不明な表現。コロナ禍中から始まり、最近では頻繁に耳にするようになっています。

労働から心理的に遠ざかり、必要最低限の労働しかしない、心は退職済みのような人が組織に蔓延る。こんな風に訳されることが多いこの言葉。でも、最新のアメリカのニュースを読み解いてみると、『必要以上に必死に働くという行為はしない』という気持ちの部分の意味合いが強くあると感じます。

職場で給料を得るために求められる仕事、要求された分の仕事、そこは当然こなしていく。ただし、仕事に全てを捧げなければならないという考えは持たない・捨てる。いずれにしても、自分の感情を押し殺して無理をしてまで、絞り出すような働き方はしない。自分自身の価値は、職務や労働のみだけで定義なんてされたくない...。

とはいえ、この新語をめぐっては、すでに多くの異議が唱えられています。その理由は、『必要最低限を超えて頑張ることで、成長進化して可能性を広げることができるから』。

組織への帰属意識の低さ、仕事への熱意の低さ。それらは当然、離職率にも影響を及ぼしていきます。結果的には、そのような傾向を持つ人が多い組織の生産性は低くなる。そう分析をするエコノミストの声もあります。

いずれにせよ、この新語の背景に見えるのは、パンデミック、社会不安、経済的混乱という社会から発生してきた現象。そこから派生して、賃金、リモートワークや柔軟性、自己管理など、人々の仕事に対する要求が大きくなる今の社会。

ポートランドを含めて全米各地では、今もなお記録的な数の退職者が出続けている『大量 離職時代(Great Resignation)』の問題は継続中です。

米国の人材不足、価値観の大きな変化、大量離職時代 については、過去のこちらの記事をご覧ください。

ミレニアル世代は、仕事と私生活に『境界線を引く』。その下のZ世代の大半は、価値観を共有できる職場に身を置きたい。自分が役に立っていると思える職場で働きたい。そんな思いが強くあるといいます。

では、そんな静かな退職を行う人は怠けているだけなのか。コロナや時代が生んだ問題なのか。それとも、自分の心や脳を守るための防御策・行為なのか。

多くの人は、現在の複雑な要因が重なり合っていると分析をしています。『仕事に期待する意味や目的を見失った』『自分自身の目標と会社での目標の間に、温度差を感じるようになった』『リモートワークで孤立している』『ここが自分の本来の居場所なのか』。そして何よりも『疲れた』と。

| 『静かな退職』vs『ハッスル・カルチャー』

弱肉強食のアメリカのビジネスシーン、または日本の『仕事=人生』のような極端な働き方。これは一般に、ハッスル・カルチャーと呼ばれます。

先進国で唱えられ始めた静かな退職。それの逆を行く現象も途上国では起こっています。

例えばインド。共和制施行後、教育と人材の育成に国を挙げて力を注いできました。その結果、今、世界のIT業界のトップにインド人が君臨し始めています。 先進大国での成功者例が、よりおおくの成功者の活力になっていく。後に続けとばかりに、寝ずに学び働き、成功を手に入れることが美とされています。

多様な文化人種背景や思想を持ち、英語を話せる人口が多いインド。そんな『タフさ』と『柔軟さ』、カオスに『生き延びる力』が、先の見えない今の国際社会に求められているのも事実です。

加熱する競争社会。そこで生き抜いた人だけが、ピラミッドの上層部に行ける。途上国のパワーは、まるで昭和の日本を映し出しているようです。

しかし、途上国内のパワーとそれに伴うストレスは、すでにドロップアウトを多く生み出しているとのこと。

このような極端な2つの価値観が混在する現代。

社会的圧力に振り回されないで、もう少し自分の価値観を見出して生きていきたい。とはいえ、ただ感情的に「この仕事は自分には向かない。」といって辞めることとも違うはず。

バランスを取ることは難しいことです。しかし、必要な心のバランスを取る防御システムともいえる、この静かな退職という言葉。次のステップに進んでいくためには必要、という人も多くいるのではないでしょうか。

running light and shade.jpgPhoto | i-Stock

| フィールドの新しいコースの選択 

そんな新語の話を始めると、「次のステップに行く為には、静かな退職だけが道とは思わない。でもね...」そう言って、オレインさんは一点を見つめながら再び語りはじめます。

「自分の中での葛藤もあったけれども、やっぱりこの大会に何らかの形で携わりたくって。だから、業務ヘルパーとして働くことにしたんだ。正直恥ずかしかったし悔しかった。こんなはずじゃなかったってね。

でもそれ以上に、どんな形であれ大会で同じ空気を吸っていたい。そう正直に感じている自分の心を尊重することにしたんだ。」

葛藤の後、プライドを一度手放して、気持ちを開放したと言います。

諦める勇気も必要だと思うんだよ。一回、手放すことだよね。このプロセスを経て、初めて前には進むことができると思うから。」

過去の栄光というものを手放したことで、見える事柄が多くあると言います。今まで走っていた人生のレーンを変えて、新しいコースを助走し始めたオレインさん。現在では、スポーツブランドの商品モデルや商品プロモーション促進販売員を生業としています。

「分野は違っても、今まで生きてきた道のり、そして過去のトレーニングの成果は今の生活にもしっかりと反映をしている。その時期その環境で、自分の思考やステージに合った生き方を探していかないと。だって、人生は長いんだから。

それに、同じことをずっとやっていくことって、不自然だし無理があるよね。日本人は真面目だから、真剣に考える傾向があるでしょう。極端に自分を追い詰めるほど、深刻に考えすぎないでほしい。

心と脳に余白をもって楽しくやれば、必ず自分自身に勝てるようになる。これは、アスリート時代からの教訓!」

人生を歩んでいく中での光(浮き)と影(沈み)の時期は、誰にでもあります。

そして、活躍した(と思える)時期より、人生を深く考え悩み苦しんだ時期の方が長いのは、あなただけではないはずです。

一見、影にも見える積み上げられた経験は、時と共にかけがえのない財産になっていく。その経験によってこそ、その人となりの深みを深め、あたらしい光となって自然に放たれる。そう信じています。

違う自分を見つけること。それは、とても幸せな自分自身への行為ではないでしょうか。

さて、あなたの大切な人生のフィールド。あなた自身は、どう進んでいきたいですか。

Lane alone.jpgPhoto | i-Stock

次回のテーマは、特別企画『 オレゴン州知事に密着 in Japan 』!

物価高、原油高騰、円安などの要因が重なり合う、現在の貿易事情。親日家も多いオレゴン州と日本との関係って? その陰の支えとなっている国際交流? 普段は、見聞きできない舞台裏の特別レポートです。

実は、コロナ禍初となる『 州知事(と州経済局)対貿易会議 』の訪日が、ようやく決定しました。この10月末に、通年より人数を絞り込んでの渡航です。

著者(山本)は、州知事室選出の貿易戦略諮問委員。また、州経済局女性リーダー会議の議長として、州や市と長年協働をしています。今回も多くの会議で、牽引役として務めてまいります。

尚、私事とはなりますが、州行政の皆さんがオレゴンに戻った後も、約1か月継続滞在。その間、行政、大学(院)、企業等でレクチャー・講義、そして懇親会など。3年ぶりの東京への里帰りです~。

このような理由から、その間2か月の投稿はお休み。次回の掲載は、12月中旬。2022年としての最終の記事となります。(えっ!もう年末の話とは...

記:州訪日に関するお問い合わせは、山本まで直接ご連絡頂ければ幸いです。行政との合意上、州政府・知事室への直接のご連絡はお控えください。

 

Profile

著者プロフィール
山本彌生

企画プロジェクト&視察コーディネーション会社PDX COORDINATOR代表。東京都出身。米国留学後、外資系証券会社等を経てNYと東京にNPOを設立。2002年に当社起業。メディア・ビジネス・行政・学術・通訳の5分野を循環させる「独自のビジネスモデル」を構築。ビジネスを超えた "持続可能な" 関係作りに重きを置いている。日系メディア上のポートランド撮影は当社制作が多く、また業務提携先は多岐にわたる。

Facebook:Yayoi O. Yamamoto

Instagram:PDX_Coordinator

協働著作『プレイス・ブランディング』(有斐閣)

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