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イタリア事情斜め読み

ヴィズマーラ恵子|イタリア

イタリア新政府発足、メローニ首相所信表明演説の内容

クイリナーレ宮殿、2022年10月22日 撮影、セルジョ・マッタレッラ共和国大統領とジョルジャ・メローニ首相、新政府の閣僚。写真出典元Author:Presidenza della Repubblica

2022年10月25日、ジョルジア・メローニ首相は、議会でを所信表明演説をし、政府への信任投票を求めた。
モンテスキューの啓蒙思想と2人のローマ教皇 (ヨハネ・パウロ2世とフランシスコ) の言葉を組み合わせて引用したり、また、スティーブ・ジョブズが若者に向けた有名なスピーチ「人間の偉大さは自由意志にあるから」などのフレーズもと入れた、約70分間にわたる長いスピーチであった。

以下、筆者による意訳、大事なところだけを抜粋して紹介する。

イタリアは西側とその同盟システムの完全な一部であり、欧州連合、ユーロ圏および大西洋同盟の創設国であり、G7のメンバーであり、何よりも、ギリシャとともに、西側文明とそのシステムの発祥地です。自由、平等、民主主義に基づく価値観であり、ヨーロッパの古典的およびユダヤ教とキリスト教のルーツから生まれる貴重な成果です。(〜中略〜)

この政府は、現在施行されている規則を尊重すると同時に、安定成長協定の改革に関する進行中の議論から始め、機能していない規則を変えるために貢献します。イタリアは建設的な精神を持って国際フォーラムに堂々と立つ義務を負っていますが、従属関係や劣等感を抱く必要はありません。イタリアの国益の肯定と、ヨーロッパと西洋の共通の運命の認識を組み合わせることです。
(〜中略〜)

大西洋同盟は、民主主義国家に平和と安全の枠組みを保証します。それに貢献することはイタリアの義務です。なぜなら、私たちが好む、好まざるにかかわらず、自由には代償が伴います。国家にとっての代償は、自国を守る能力と、同盟の枠組みの中で示すこと、それが信頼へとつながります。イタリアは、ロシア連邦の侵略に反対する勇敢なウクライナ国民への支援をはじめ、大西洋同盟の信頼できるパートナーであり続けます。侵略戦争と主権国家の領土保全の侵害を受け入れることができないという理由だけでなく、それが私たちの国益を守る最善の方法だからです。公約を尊重するイタリアであるからこそ、たとえば、ヨーロッパや西側のレベルで、国際危機の負担をよりバランスの取れた方法で分担してもらえるよう要請する権限を持つことができるのです。

(〜中略〜)

など、世界の中のイタリアの立ち位置を再確認する内容が続いた。日本の新聞各社・TV放送局・マスコミが「極右政党」「右翼」「起源ネオファシスト」「ファシスト源流」「右派」「中道右派連合」など、イタリアの同胞政党を様々なタイトルで呼称しているが、党首ジョルジャ・メローニは次のように演説で語っている。

自由、自由、自由と民主主義は現代ヨーロッパ文明の際立った要素であり、私はその中にいて常に自分自身について認識してきました。私は非民主的な政権に同情したり、親しみを感じたことは一度もありません。1938年の人種法はイタリアの歴史上、最低最悪の汚点であると私は常に思ってきました。私の政権にファシズムを含む政権は存在しません。


そして、メローニ首相は演説の中で、イタリアの歴史上重要な偉人たちの功績を挙げていった。

「私の肩にのしかかっている多くの重荷の中には、この国で最初の女性首相が政府を率いるという事があります。今、この瞬間も不当な扱いを受け、大きな困難に直面し、日々犠牲になっている全ての女性に対し、自分の才能を主張するために、あるいはもっと簡単に言えば、自分の才能を評価してもらう権利を主張するために、何ができるか考える責任があるという事実も避けられません。同時に、彼女たちの模範となる盾を使って、私の頭上にある重いガラスの天井を壊すために屋根に登るハシゴを作った人々のことに畏敬の念を抱いています。クリスティーナ、ロザリー・デイ・ミル、アルフォンシーナは偏見に立ち向かい、マリアやグラツィアは全国の少女たちに教育を受けられるように門を開いた。そして、ティーナ、ニルデ、リタ、オリアーナ、イラリア、マリア・グラツィア、ファビオーラ、マルタ、エリザベッタ、サマンサ、キアラ。イタリアの女性の価値を示していただき、ありがとうございました。私も貴女たちのようにありたいと願い努めて参ります。」

と、自身が衝動を掻き立てられ、愛や理性や大胆さを学び、勇気づけられた女史を列挙して敬意を表した。

プログラムに関する声明の中で、メローニ首相は何度か引用に頼っていた。

-環境問題に触れ▶︎ロジャー・スクルートンを引用
環境保護主義の問題について、ヨーロッパの保守思想の偉大な巨匠の1人であるロジャー・スクルートンの言葉を取り上げた。
ロジャー・スクルートンの著者の中で、"生態学は、そこにいる人、そこにいた人、そして私たちの後に来る人、この同盟の最も鮮明な例"を引用し、「私たちの自然遺産を保護することは、私たちが先祖から受け継いだ文化、伝統、精神性の遺産を保護し、それを子供たちに引き継ぐことができるように、まさに今を生きている私たちが担う責任です。保守派ほど説得力のあるエコロジストはいない。しかし、特定のイデオロギー的環境保護主義者と私たちを区別するのは、環境、経済、社会の持続可能性を組み合わせて、人間を内側にして自然を守りたいということです。私たちはそれを大事にします。」と環境保護とエコロジーは保守派の得意分野であると語っている。

-公民権に触れ▶︎モンテスキューを引用
公民権の問題については、野党と最もホットな戦線の話題の一つであり、メローニ首相はその対処を迫られている。そこで、モンテスキューの
"自由とは、他のすべての良いものを楽しむことができるような良いものです。"を引用して、「私たちの行動を導くのは自由です。存在する、行う、生産する自由。中道右派政府は、市民と企業の自由を制限することは決してありません。」や「公民権や妊娠中絶についてさえ、選挙運動の中で、私たちの本当の意図が何であるかについて真実を語ったか、誰が嘘をついたか、事実の証拠を私たちは見ることになるでしょう」と、メローニ首相独特の喋りのアクセントとリズムで強く抑揚をつけて語った。

-自由とは、権利とは、やるべきことは、▶︎第264代教皇ヨハネ・パウロ二世の教えを引用
「私たちの政府が宣誓を行った日に、ヨハネ・パウロ二世の典礼式が行われました。私が個人的に知る特権を持っていた法王、政治家、聖人。彼は、私がずっと大切にしてきた基本的なことを教えてくれました。"自由とは、好きなことをすることにあるのではなく、しなければならないことをする権利を持つことにある"。 私はいつも自由人だったので、自分がしなければならないことをするつもりです。」

-貧困と経済支援に触れ▶︎現ローマ教皇フランシスコの言葉を引用
貧困と市民権収入について、現ローマ教皇フランシスコが、最近、重要な概念を繰り返し述べている「人々に尊厳を与えるのは仕事である」「貧困と闘うには雇用を創出する必要がある」という言葉も引用した。
「私たちは、労働条件ではなく実際に脆弱な人々のために必要な経済的支援を維持し、可能な場合はそれを増やしたいと考えています。しかし、解決策は市民権収入の援助金を増やすことではなく、人々に働ける環境を与えることを考える。その方法を考える上で、市民権収入は敗北を表していた。」と付け加え、前政権のバラ撒き政策を見直すことに意欲を示しているようなフレーズであった。

-マフィア撲滅に触れ▶︎マフィアと戦った英雄たちを列挙
マフィア撲滅に向けて活動した英雄パオロ・ボルセリーノ裁判官やジョヴァンニ・ファルコーネ治安判事の名前を出し、
「この政府では、犯罪者とマフィアのメンバーは柔軟性に欠ける軽蔑に値するでしょう。」や、地中海におけるイタリアの戦略的役割を回復するための「エンリコ・マット1世のアフリカ計画」にも言及した。

メローニ首相は、まだ10代の少女だったときに政治に関わるようになった理由を思い返し、率直に話した。
「合法性は政府の行動の指針となるでしょう。私は15歳のときに政界に入りました。それは、マフィアが裁判官のパオロ ボルセリーノを殺害したヴィア・ダメリオ大虐殺の翌日でした。傍観していては怒りと憤りが政治に変換されるだろうという考えに駆り立てられたからです。"市民参加"、私が今日、首相になるまでの道筋は、あの英雄の模範に由来します。そして彼は次のように言いました。「私たちは頭を高く上げてマフィアの癌と直面します。粘り強さはおそらく彼らを死に至らしめるでしょう。
ジョヴァンニ・ファルコーネ治安判事、フランチェスカ・モルヴィッロ治安判事(ジョヴァンニ・ファルコーネ判事の妻)、ロザリオ・リバティーノ治安判事、ロッコ・キンニーチ治安判事、ピオ・ラ・トーレ副大統領、カルロ・アルベルト・ダッラ・キエザ(パレルモ知事)、ピエルサンティ・マッタレッラ(現大統領の兄)、エマヌエラ・ロイ警察官、リーベロ・グラッシ実業家、ピーノ・プリージ司祭など、私たちは、彼らと一緒にいることを忘れないでください。」と、メローニ首相は、シチリアマフィア、コーザ・ノストラと勇敢に戦い、卑怯なマフィアから虐殺・暗殺された治安判事、政治家、護衛官、軍人、一般市民、司祭たちの名前を読み上げた。


-移民問題に触れ▶︎エンリコ・マッテイ計画を引用
移民の問題に取り組むとき、メローニ首相はエンリコ・マッテイの人物像を出してきた。
「2023年10月27日は、戦後復興の立役者の1人であり、世界中の国々とより良い相互協定を結ぶことに貢献した偉大な功労者、エンリコ・マッテイの没後60周年です。イタリアは、特にサハラ以南でのイスラム急進主義の憂慮すべき広がりに対抗するために、EUとアフリカ諸国間の協力と成長の高潔なモデルである、『アフリカのためのマッテイ計画』を促進しなければならないと私は信じています。 地中海での戦略的役割を取り戻したいと考えています。」と、メローニ首相は述べた。


| ジョルジャ・メローニ政権の発足

ジョルジャ・メローニはイタリアで初めての女性首相であり、首相就任時の年齢では、歴代で3 番目に若い。しかし閣僚を見てみると、年齢層は50代以上がほとんどで、国会議員でないのは24人中8人だけである。
前ドラギ政権では、23人の閣僚中、女性閣僚は7人、メローニ政権では6人だ。

・大臣の平均年齢
メローニ新政権の平均年齢は前ドラギ政権よりも高くなり、60歳代の大臣が12人、50歳代が10人、40歳代は49歳のマッテオ・サルヴィーニと46歳のアレッサンドラ・ロカテッリ、首相のメローニ45歳を入れてわずか3人である。

・大臣の最終学歴
それぞれの閣僚大臣の最終学位に関しては、大卒者の割合が高い政府となった。
メローニ首相、彼女の代理マッテオ・サルビーニ、グイド・クロセットの3人だけが高卒である。サルビーニ副首相兼インフラ大臣は大学の政治学を専攻したが中退、クロセットも経済学を専攻したが学位には達していない。
学部別では、法学(10人)、経済・商学(4人)、医学(2人)、社会学(2人)、政治学(1人)、人文科学(2人)、コミュニケーション(1人)となっている。

・大臣の出身地
執行部の出身地、地理的起源を見てみると、伊北部出身者に偏っている。
実際には北部地域出身の閣僚が15人。伊中部地域からは4人、南部地域からは6人。

| イタリア政治体制内閣(主要閣僚)

⭕️第68代イタリア共和国閣僚評議会議長:ジョルジャ・メローニ(Giorgia Meloni)

・副首相兼インフラ大臣:マッテオ・サルヴィーニ(Matteo Salvini) 
・副首相兼外務大臣:アントニオ・タヤーニ(Antonio Tajani)
・首相官房次官:アルフレド・マントヴァーノ(Alfredo Mantovano)
・経済財務大臣:ジャンカルロ・ジョルジェッティ(Giancarlo Giorgetti)
・内務大臣:マッテオ・ピアンテドージ(Matteo Piantedosi)
・防衛大臣:グイド・クロセット(Guido Crosetto)
・法務大臣:カルロ・ノルディオ(Carlo Nordio)
・経済開発大臣 (企業およびメイド・イン・イタリー):アドルフォ・ウルソ(Adolfo Urso)
・行政大臣:パオロ・ザングリッロ(Paolo Zangrillo)
・労働・社会政策大臣: マリーナ・エルヴィア・カルデローネ(Marina Elvira Calderone)
・保健大臣: オラツィオ・サキッラーチ(Orazio Schillaci)
・制度改革大臣: マリア・エリザベッタ・アルベルティ・カセッラーティ(Maria Elisabetta Alberti Casellati)
・文化大臣:ジェンナーロ・サンジュリアーノ(Gennaro Sangiuliano)
・農業・食糧主権大臣:フランチェスコ・ロッロブリジーダ(Francesco Lollobrigida)
・文部大臣: ジュゼッペ・ヴァルディターラ(Giuseppe Valditara)
・大学・研究大臣:アンナマリア・ベルニーニ(Annamaria Bernini)
・観光大臣:ダニエラ・サンチェラ(Daniela Santanché)
・地方自治大臣:ロベルト・カルデローリ(Roberto Calderoli)
・欧州問題、結束政策、PNRR 担当大臣:ラファエーレ・フィット( Raffaele Fitto)
・障害大臣:アレッサンドラ・ロカテッリ(Alessandra Locatelli)
・議会との関係大臣:ルカ・チリアーニ(Luca Ciriani)
・環境およびエネルギー安全保障の大臣 (元生態学的移行大臣):ジルベルト・ピケェット・フラティン(Gilberto Pichetto Fratin)
・海洋・南方政策大臣:ネッロ・ムスメチ(Nello Musumeci)
・家族、出産、機会均等大臣:エウジェニア・ロッチェッラ(Eugenia Roccella)
・スポーツおよび青少年大臣:アンドレア・アボーディ(Andrea Abodi)

大臣25人、(男性19人、女性6人)で構成された。

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クイリナーレ宮殿、2022年10月21日撮影Author:Presidenza della Repubblica、セルジョ・マッタレッラ共和国大統領と上院および下院の「イタリアの同胞」グループ、「同盟」グループ、「フォルツァ・イタリア」グループ、サルデーニャ行動党、上院のグループ「Civici d'Italia - Noi Moderatiグループ

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Profile

著者プロフィール
ヴィズマーラ恵子

イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie

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