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パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです

RIKAママ|フランス

サマータイムはなぜなくならないのか?

午前2時が3時に変わる この不可思議なシステム  pixabay画像

多くの批判の対象となり、脅かされつつも取り除かれることのないサマータイムは、1973年から1974年にかけてのオイルショックと石油価格の高騰を受けて、主にエネルギー節約を目的として1975年の政令によってフランスに導入されました。

毎年3月の最終週の日曜日には、午前2時が午前3時に変わるという不可思議で不健康なシステムには年2回、しばしの間、1時間とはいえ、軽い時差ボケに悩まされることになります。

このシステムが始まった当時は、夕方の自然太陽光が1時間多くなったおかげで主に重油によって発電されていた電力を節約することに繋がるとエネルギー節約のための一時的措置として開始されたものでしたが、かれこれ50年近く経った2024年現在の現在も続いています。

時代の変化とともに節電効果は減少 

しかし、このサマータイムによる節電力も1996年には年間1,200GWhと見積もられていましたが、低消費電力照明の普及などにより、2000年以降には、440GWh/年と減少傾向にあり、2030年には、せいぜい 300GWh/年ほどであると予測されています。Ademe(環境エネルギー庁)によると、これは年間電力消費量の約 0.07%程度であり、サマータイムの決定的な廃止に関する議論を煽るのには充分な数字であると思われるものの、「サマータイムはほぼゼロコストでエネルギーとCO2の実質的な節約が可能である」として説明されています。

しかし、一方ではその有用性について議論の余地があるだけでなく、サマータイムによる時間の変化は健康リスクのベクトルとなる可能性も問題視されており、米国立睡眠警戒研究所によると、「特にサマータイムへの移行後の週に交通事故、心筋梗塞、うつ状態が増加したとの報告がある」と発表されています。

パンデミックのためにサマータイム撤廃計画がストップした

サマータイムによる時間の変化を経験した人なら、少なからず経験したことがあると思いますが、たとえ1時間の変化とはいえ、体内時計が崩れることによる身体への負担は、単に1時間夜更かししてしまった翌日に感じる睡眠不足などとは違う辛さを感じます。これにより、睡眠障害、心筋梗塞、脳卒中、うつ病などの健康被害が問題視されるようにもなり、サマータイム撤廃の機運が高まり、2019年3月、欧州議会は2021年からの季節時間(サマータイム)による時間の変更システム廃止を規定する指令草案を採択しました。

ところが、新型コロナウィルス感染症のパンデミック危機により、この文言は無期限に延期され、パンデミックが一応、終息に近い状況に達した現在もなお、この件は棚上げされたままになっています。毎年のように一年のこの時期になると、「サマータイムはまだ続くのか?いつ終わるのか?」と話題には上るものの、一旦、定着してしまったサマータイムを撤廃するには、欧州内でサマータイムの時間を選択するのか?もともとの時間を選択をするのか?で足並みが揃わないこともあり、また、次から次へと起こる戦争などの世界的な問題のために、この話題は具体的には進展しないままでいるのです。

欧州の足並みが揃わない理由

2001年以降、欧州連合のすべての加盟国は3月の最終週の日曜日に夏時間に切り替えられることになっていますが、サマータイムを撤廃する場合にそのどちらを選択するかどうかは、各国に委ねられており、足並みが揃いません。もともとあった時間軸にサマータイムを導入したのですから、そこは一律、もとに戻せばよいだけのことだと思うのですが、そこは妙に各国の要望を尊重するなどとするのですから、足並みが揃わないということも生ずるのです。

これは近隣する各国が夏時間を選択するか冬時間を選択するかの相違により、鉄道などの輸送機関に非互換性が生ずることで、どちらの国がどの国に歩み寄るかで摩擦が生じることを恐れていることが原因の一つでもあると言われています。ヨーロッパは地続きであるために国境を越えて通勤している人も少なくないため、例えば夏時間を選択したフランスと冬時間を選択したドイツ間を通勤している人は1日に2回時計を変更しなければならなくなるわけです。

時間生物学考察と政治経済的利益の衝突

多くの科学者は、もともとの時刻(冬時刻)を維持することを推奨しており、それが最も生理学的に叶うことであり、体内時計と最も同期していると説明しています。そもそも欧州の時間は、GMT+1に固定されているため、冬時刻でもすでにグリニッジ子午線の太陽時よりも1時間遅れています。したがってサマータイムは太陽から2時間ズレていることになります。もしも一年中サマータイムを維持するとしたら、一年で最も日が短い12月21日、パリでは日の出が冬時間の8時41分ではなく、9時41分となり、フランス人の健康に悪影響を与えるであろうと専門家は語っています。

日本などと比べると、もともとヨーロッパは夏と冬では日照時間が極端に違います。夏の間は夜、なかなか暗くならずに子供を寝かしつけるのに、明るい中、雨戸を閉めたりもし、逆に冬には、まだ夕方からあっという間に暗くなり、朝は暗いうちから起きて学校に子供を送っていかなければならなかったりするのには、慣れるまでは、切ない気持ちがしたものです。ですから、この夏の期間に思い切り太陽の光を満喫しようとする気持ちが強いのもこの風土ならではなのかもしれません。

しかし、サマータイムが導入された当初ほどには、節電効果は認められなくなり、おまけに健康的なリスクの要因となっていることが解明されつつあるにもかかわらず、これが撤廃に向けて大きく舵をとることができない正直なところは、経済的利益にあるのではないかと思っています。日照時間が長い夏の時間の実質の活動時間が長くなれば経済的利益が増えているのは確実です。

サマータイムに関しては、多くの人が不満を訴えながらも、今一つ不満が爆発するには、それが1時間の時間のズレという漠然としたものであることから、フランスなら他の事象なら必ず起こるであろうデモもストライキも起こってはいません。

省エネのためという名目で始められたサマータイムではありますが、その省エネ効果は減少しているうえに具体的な健康被害が叫ばれつつも、結局は省エネという傘をきて、結果的には経済利益が優先されていることに、結局やっぱりそこなの?とどうにもモヤモヤとした気持ちになるのです。個人的にはサマータイムは身体が辛いだけで何もメリットはかんじられないので、できるだけ早く撤廃してもらいたい派です。

 

Profile

著者プロフィール
RIKAママ

フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。

ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」

Twitter:@OoieR



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