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シアトル発 マインドフルネス・ライフ

長野弘子|アメリカ

大統領と銃と、アメリカン・マインド(2)

(出典) https://pixabay.com

 過去4年間で、アメリカ社会における犯罪率は増加したのだろうか。調べてみると、実際には過去30年間でアメリカの犯罪率は大きく下がっている。その下降トレンドを引き継ぐ形で、トランプ政権下でも犯罪率は下がり続けている。ワシントンポスト紙やブレナンセンターなどメディアや専門家が問題だと指摘するのは、こうした過去のデータを提示せずに、トランプ大統領はアメリカの増加する犯罪率を食い止めることに成功したと主張してきたことだ。

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 興味深いのは、犯罪が減少傾向にあるという事実に反して、大多数のアメリカ人が過去30年間に犯罪は毎年増加していると感じてきたことだ。ピュー研究所が11月20日に発表した調査によると、1993年以降のギャラップ調査で24回中20回、6割以上のアメリカ人が前年よりも犯罪が増加したと回答。ただし、自分の住む地域に関しては、前年より犯罪が増加していると答えたアメリカ人は、国全体で犯罪が増加していると答えたアメリカ人より平均20%ほど少ない。この国と地域に対する意識のずれが、今年は30年にわたる同調査のなかでも最大になり、78%対38%で実に40%という大差となった

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 この意識のずれの一因として、ギャラップは、新型コロナ禍で人々の行き来が少なくなり地域に外部者が入ってこなくなったため、地域の犯罪増加をあまり感じなかったのではないかと推測している。また、共和党支持者の政治的な目的により、犯罪が増加しているというイメージが植え付けられた可能性も指摘。つまり、トランプ大統領や共和党支持者や関連メディアが、ブラック・ライヴス・マター(BLM)の抗議運動などに関して、平和的なデモ参加者ではなく、暴徒化した一部の人々にフォーカスを当て恐怖心を煽ったのが原因だと推測している。いずれにしても、今年は新型コロナの世界的流行により、人々の精神状態や生活様式に大きな変化が及んだ年でもあり、包括的な原因分析には今後数年を要するだろう。

 ただ比較的のんびりとしたシアトルでも、近所で起こった暴動や略奪、学校やオフィスでの銃乱射事件などの話が日常会話に出てくるほどだ。犯罪率が下がり続けているという実感は正直なところまったく無いので、自分自身にも確証バイアスが働いていることに気づかされた。確証バイアスとは、認知バイアスのひとつであり、個人の価値観にしたがって都合のいい情報を無意識に選択することで、さらに自分の価値観や考えを強化してしまう思考パターンのこと。

 特に、インターネットの普及以降、追跡機能や検索・推薦アルゴリズムにより自分の嗜好に合わせたコンテンツが自動配信され、ソーシャルメディアで同じような価値観や趣味を共有する人たちとのやりとりも増えている。その一方で、自分の考えと異なる多様な意見や考え方に触れる機会が減っている。こうして、自分の都合のいいコンテンツの「泡」の中に入ってそれ以外の世界から遮断され、さらに確証バイアスが強化されていく「フィルターバブル」の状態に陥ってしまう。

 ネガティブな確証バイアスが強まれば強まるほど、現実と空想の区別がつきにくくなり、不安や恐れから排他的または攻撃的な言動に走るリスクが高まるとも言われている。著名な精神科医でありハーバード大学医学大学院精神医学講師でもあるロバート・J・リフトン氏は、トランプ大統領が強化する確証バイアスの危険性を「悪意の正常性(Malignant Normality)」と呼び、アメリカ人の精神性の変容に対して警鐘を鳴らしている。広島の被爆者や洗脳を受けた人々の研究で有名なリフトン氏が危惧する「悪意の正常性」について、次回は取り上げる。 

 

Profile

著者プロフィール
長野弘子

米ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー。NYと東京をベースに、ジャーナリストとして多数の雑誌に記事を寄稿。東日本大震災をきっかけにシアトルに移住。自然災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするため大学院で心理学を専攻。現地の大手セラピーエージェンシーで5年間働いたのちに独立し、さまざまな心の問題を抱える多くの子供やティーンエイジャーに対してセラピーを提供している。

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