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シアトル発 マインドフルネス・ライフ

長野弘子|アメリカ

東日本大震災と新型コロナ (後半)

私もまた、あの震災から完全に立ち直ったと言えるかどうか、正直わかりません。

そう思ったのは、つい先日、魚釣りが大好きな10歳の息子が、「大きくなったらビーチサイドに住んで、毎日釣りに行きたい!」と、目をキラキラさせながら言ったときでした。

思わずドキッとしました。

シアトルに引っ越したばかりの頃は、車の運転中、レイクワシントン沿いに建てられた瀟洒な家々を見るたびに、「もし、津波が来たら、どうするんだろう」と怖くなっていたのを思い出したのです。

そんな恐怖心もうすれ、何も感じなくなってからずいぶんと経っていたので、息子の言葉で過去の不安や恐れがよみがえってきたのには驚きました。あのときの気持ちは薄れても消えることはないのか、、。

だけど、震災がなければ、シアトルに移住して、たくさんの人に出会うこともなかったし、ここでセラピストとして働くこともありませんでした。そう考えると、私にとって震災は、生き方や価値観を大きく変えてくれた、意味のある何かとも言えます。

「自分にできることは何だろう?」と、いまだに問いかけ続けていますが、痛みを受け入れて、日々の毎日を丁寧に生きていくことが自分にできることなのかなと、ようやく最近になって思えます。

そして今、コロナ禍により、あの震災のときに日本人の多くが感じたときと同じような感覚を、シアトルの人も共有しているような気がします。

クライアントのなかにも、ご家族をコロナで失った方がいます。失われた日常、将来への不安、やり場のない怒り、、、震災のときに大勢の日本人が感じたような喪失感を、世界中の人々が同時多発的に感じているのかもしれません。

喪失を受け入れ、新しい日常とともに生きていくことに意味を見出すまで、ほんとうに時間はかかります。

世界的なベストセラー本『7つの習慣』の著者スティーブン・コヴィーは、人が生きているなかで起きる問題や関心事には2種類あると言います。それは、自分がコントロールできることと、自分にはコントロールできないこと。

自分が関心を持っているものについては「関心の輪」と呼び、その中で自分がコントロールしたり変えることのできるものは「影響の輪」と呼んでいます。

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コントロールできないものにフォーカスし続けると、エネルギーを消耗するわりには前に進むことができずに、無力感や絶望感にさいなまれます。

前述のキューブラー=ロスの「喪失の5段階」に当てはめると、喪失を受け入れられずにあがいている最初の3段階の「否認」、「怒り」、「取引」は、コントロールできることではなく、コントロールできないことにフォーカスしている状態とも言えます。

そして、悲しみにどっぷりと浸る第4段階の「抑うつ」、喪失を受け入れる最終段階の「受容」は、自分がコントロールできることにフォーカスすることで、自分の気持ちに向き合って、自分自身と何とか折り合いをつけて、立ち直っていくプロセスとも言えます。

日本は、世界で起きるマグニチュード6の地震の約2割が日本に集中していると言われるほどの地震大国。それ以外にも、さまざまな自然災害が猛威を振るい、世界で唯一の被爆国でもあるなど、私たち日本人は、大きなトラウマを共同体レベルで抱えています。

だからこそ、人や自然を恨むのではなく、自分がコントロールできる「影響の輪」にフォーカスして、自分にできることを粛々とやっていくという知恵が、昔から身についていたのでしょう。

そうやって、はるか昔から命をつないできた私たちは、コロナ禍の状況にも同じように、自らを取り戻して立ち直っていくだろうと信じています。

 

Profile

著者プロフィール
長野弘子

米ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー。NYと東京をベースに、ジャーナリストとして多数の雑誌に記事を寄稿。東日本大震災をきっかけにシアトルに移住。自然災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするため大学院で心理学を専攻。現地の大手セラピーエージェンシーで5年間働いたのちに独立し、さまざまな心の問題を抱える多くの子供やティーンエイジャーに対してセラピーを提供している。

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