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農・食・命を考える オランダ留学生 百姓への道のり

森田早紀|オランダ

戦う、オランダの漁師さん

漁船に乗って行った先で、船から降りて水の中を歩きながら魚を捕るなんて...誰が想像しただろうか?

牡蠣が山盛りの、一箱40~50㎏のプラスチックコンテナを、干潟の泥にずぶずぶ沈みそうになりながら運ぶなんて...誰が想像しただろうか?

網を張るために夜中に起きて、船の外に出た時の海の静けさは....想像したよりも美しかった。

オランダの魚事情

オランダと聞いて漁業を思い浮かべる人は少ないだろう。しかし意外にも、オランダは世界第九位の魚介類輸出国なのである。年間の業界売上高は約45億ユーロで、うち7~8割が輸出に回される。ちなみに主な輸出品はエビだ。対して国内では年間一人当たり22.2㎏の魚介類が消費される。EUの平均消費量は25.1㎏、日本では45.5㎏なので、別段魚を多く消費する国ではない。

オランダの典型的な魚介メニューはハーリング(ニシン。塩漬けにする)とムール貝(ワイン蒸しなどにする)。毎週各地で開かれるマルシェでは、魚屋さんも出店していることが多く、新鮮な魚と揚げ魚が良く売れる。特にキベリング(タラのフライ)は、マルシェに行ったら食べる!という人も多い。

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(istock - sara_winter. Haring)

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(iStock - Ozer Koca. Kibbeling)

オランダ漁業が直面する課題と、それを逃れるための不正行為

オランダでは200強の企業が漁業に携わっている。彼らが持つ船のうち、大きなトロール船は6隻、小さな船は232艘。トロール船の数は10年前から半減したとはいえ、漁業の工業化は止まらない。より大きな船、より重い道具、より新しい魚群探知方法は海の資源に悪影響を及ぼし続けている。

それに加えて治水、気候変動など外的要因もあり、オランダの漁業は経営的に厳しい状況にあるらしい。

そんな状況下、少しでも経営を改善しようと不正行為もはびこっている。

実際に、ここ5年間でNVWA(オランダ食品消費者製品安全庁)は280件の罰金を科した。その内容に含まれるのは、例えば漁獲量の一部を報告しなかったり(クオーター以上の量を獲るため)、エンジンの出力を誤魔化したり(大きなネットを運ぶため)、網目が規定よりも小さいネットを使ったり(小さな魚=幼魚も獲れる)、ネットを二重に仕掛けたり。

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(iStock - icebergpicture)

なんと不正行為を通して、年間、一企業につき50万円も節約できるとか。

しかし 一時的なしのぎにはなるかもしれないが、自然環境への影響や漁業界全体を見た時には全く持続的ではない。そこで持続可能な漁業を示すラベルなどの取り組みが色々出てきているが、今回の記事ではオランダの団体、Goede Vissersを紹介しよう。

Goede Vissers、直訳すると「良い漁師」

Goede Vissers(グーデ・フィッサーズ)は、13件の漁師・漁業団体から成り立つ協会であり、次のようなミッションをもって活動している。

会員の「優良」漁業者(goede vissers)の魚に関して 短く透明性のある取引チェーンを実現し、消費者に魚の原産地を知らせ、さらなる持続可能性へのインセンティブとして漁業者にとっての付加価値を創出すること。

Goede Vissersとはどのような漁師なのかという条件もウェブサイトにずらりと列挙されている。例えば...

-  主に 繁殖する機会を得たであろう成魚を獲る

-  量よりも質に着目している

-  より少ない量の魚から、より多くの収入を得る努力をする

-  科学研究に協力する

-  他の漁師や専門家と改善方法を考える

しかし団体に携わっているのは漁師だけではない。役員会は3人で成り立っていて、漁師・消費者・料理人の代表が一人ずついる。

レストランを持つgoede visser

Goede Vissersの一員であるヤンとバーバラは、オランダ北部Lauwersoogという町に拠点を持つ漁師だ。

冒頭の文は、私が2022年の夏休みにボランティアでお世話になったときの体験の話。

ヤンとバーバラは、Lauwersoogで週末に漁師直営レストランを運営しながら、平日にはDen Oeverという港から船を出して魚や牡蠣を取りにいく。獲る量や獲り方にはとても気を付けていて、さらに売り方にもこだわる。レストラン、そしてユトレヒトとアムステルダムといった大都市でのマルシェを中心にお客さんにできるだけ直接売っている。

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(2022年8月 筆者撮影 魚の燻製も自分たちで作っている。レストランの前で干している様子)

(ボランティア体験の話はあとでYouTube動画にまとめます!)

皮肉な課題

しかし、彼らがいるのは甘い世界ではない。小さな漁師として、漁業界の工業化に抗うだけではなく、年々厳しくなる自然保護のための規制にも悩まされている。レストランのあるLauwersoogからではなく、車で一時間半のところにあるDen Oeverから船を出しているのもそのせいだ。Lauwersoog周辺の海には自然保護区域が多すぎて、ほとんど漁ができないらしいし、できない区域も広がっているらしい。

また、漁の免許更新や「自然保護のためにエコなものに変えてください」と言われる機器にかかるお金も馬鹿にならない。特に、小さな漁師にとっては。

自然になるべく負荷がない形で、と努力している小規模漁師にとって、自然保護の規制がこのように重くのしかかるのは、なんと皮肉なことだろうか。

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(2022年8月 筆者撮影 漁船の上から。隣にあるのが牡蠣が乗ったボート)

ボランティアとして滞在中に一番印象に残った、漁師さんの言葉。

「私たちは、こういうやり方の漁業を続けていきたい。でも、漁業に関わりたいと思っている若い人たちはほとんどいないし、その気持ちはとてもよく理解できるんだ。なぜなら、オランダの漁業は未来が全くわからない。もしかしたら、来年急に、漁ができなくなっているかもしれないから。」

私の想像を超える不確実性と障壁に、辛抱強く、誇りをもって立ち向かう漁師さんたちがいた。

参考文献

Agrimatie, 2022. Visserij in cijfers.
The Fishing Daily, 2022. NVWA Report claims rampant fraud universal in Dutch fisheries.
Goede Vissers. Website
Hoekstra, G. 2019. Visverwerkende industrie en visgroothandel in Nederland.
Our World in Data, 2017. Fish and seafood consumption per capita.
't Ailand. Website.
World Atlas, n.d. Top Fish and Seafood Exporting Countries.

 

Profile

著者プロフィール
森田早紀

高校時代に農と食の世界に心を奪われ、トマト嫌いなくせにトマト農家でのバイトを二度経験。地元埼玉の高校を卒業後、日本にとどまってもつまらないとオランダへ、4年制の大学でアグリビジネスと経営を学ぶ。卒業後は農と食に百の形で携わる「百姓」になり、楽しく優しい社会を築きたい!オランダで生活する中、感じたことをつづります。

Instagram: seedsoilsoul
YouTube: seedsoilsoul

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