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悠久のメソポタミア、イラクでの日々から

牧野アンドレ|イラク

気候変動の影響?3,400年前の都市遺跡がチグリス川で見つかる

イメージ画像 ©筆者撮影

6月に入り、ここイラク北部でも本格的な夏の始まりを感じさせます。

日中は45℃近くになり、太陽に当たっているとその日差しの強さでグリルされているような気分になります。

さて、今月初めに「チグリス川沿いで古代ミタンニ王国時代の遺跡が見つかる」というニュースがあり、珍しくイラクを舞台にしたネガティブでないニュースとして日本でも報じられていました。

今回はその遺跡発見のニュースや、その他イラクを取り巻く文化財の現状についてご紹介します。

  

イラク北部で3,400年前の遺跡が発掘される

6月初め、イラクを舞台に考古学会で大きな発見が発表されました。

ドイツのフライブルク大学、チュービンゲン大学と地元クルド自治区の考古学者たちが共同で調査をした結果、3,400年前のミタンニ王国のものとみられる遺跡が発見されました。

このチームは今年1月と2月の2ヵ月間、水量が下がった時期を狙いイラク北部ドホーク県ケムネのチグリス川流域の青銅器時代の遺跡を調査していたところ、城壁や塔と見られる遺物を発見。さらに巨大な倉庫も発見され、これらは大きな都市の一部であると見られています。

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発見がなされた北部の町ケムネ ©Google Map

調査をした学者たちはこの都市遺跡が紀元前1550年頃からミタンニ王国の中心都市であったザチクのものであると推測しています。調査の過程でたくさんの粘土板が入った陶器も発見されており、イラク北部からシリアの一帯を支配し、その支配構造や盛衰なども含め未だ多くが謎に包まれた文明の解明に繋がるかと期待されています。

実はこの発掘調査、2019年にも同じ発掘調査チームがこの近くでミタンニ王国時代の宮殿の遺跡を発見しており、今回はその追加調査の過程で見つかったものでした。

しかし今回のこれらの新しい遺跡の発見、気候変動が原因でチグリス川の水量が減少したことが大きな要因として挙げられています。

昨年から何度か記事でも紹介しましたように、昨年イラクではひどい干ばつが起き深刻な水不足が発生しました。

今年の冬、私の暮らす北部地域では例年に比べ多くの降雨がありました。しかし水をため込む機能を果たす山岳地帯ではまた雨不足が発生。その影響で今年の夏も水不足が起きると予測が為されています。4月から続く砂嵐も水不足が大きな原因と見られています。

新たな遺跡の発見は喜ばしいことですが、それが気候変動とそれに伴う水不足が原因なのですから、皮肉なものです。

イラクを流れるチグリス川とユーフラテス川の河岸はメソポタミア文明が発展した中心地で、ウルやウルク、バビロンやニネヴェといった世界で初めて都市国家が形成された場所とされています。私自身、友人や同僚たちと郊外に行く際、「ここは○○時代の遺跡だよ」と何も保護もされておらず、紹介のための看板一つが立てられた剝き出しの数千年前の遺跡を紹介される機会もありました。まだ多くの手付かずの遺跡が残されたイラク。今後も似たような発見が為されることでしょう。

今回調査をしたチームは今年も調査の続行を計画しており、保護をした後に水量が減った頃合いを見て調査を再開する方針です。

ただこのニュースが地元市民を賑わすかというと、そういった反応は少なくとも私の周りでは見られていません。

同僚や友人たちに聞いても、このニュースを知っているという反応はあっても、それに何か特別な意味を見出すといったことはほとんどありませんでした。

私も理由は分かりませんが、自分たちの下に眠る古代の遺跡と自分たちを繋げない発想というのも、ここに住んでいて興味深い発見です。

      

観光業を盛り上げたいイラク、しかしその反面...

イラクで遺跡の発掘が盛んであった時期というのは、イギリスが委任統治領として実質支配下に置いていた時期でした。

大英博物館に行くとメソポタミア文明の遺物を見ることができ、ベルリンのペルガモン博物館では実際のレリーフを使いバビロニアのイシュタール門が再現されています。

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大英博物館、ペルガモン博物館で展示されるイラクから出土した文化財 ©筆者撮影

その後は独裁政権や紛争や過激派組織の台頭を経て、長い間イラクでは文化財の発掘調査が滞っている時期が続き、ここ数年やっと本格的に再開されました。最近ではこのミタンニ王国時代の遺跡の他に、約5,000年前のメソポタミア文明時代の遺跡も相次いで発見されています。

治安も安定の兆しが見えてきたここ数年、イラク政府は観光業の発展も目指し古代遺跡へのツアーも推奨しており、欧米を中心に観光客の入国も見られるようになってきました。

それと同時並行で西欧諸国に対し文化財の返還を求める活動も活発化させており、最近では昨年夏に米国を訪問したカーズィミ首相が17,000点ものイラクで盗掘された文化財とともに帰国。今年再建されたばかりのバグダードにある国立博物館での展示を目指しています。

しかしその反面、文化財を国外に持ち出そうとした英国人男性に懲役刑が下されるという事件も起きています。

男は今年3月、ディカール県にあるメソポタミア時代の遺跡をツアーで訪問した際、遺跡にあった壺の破片など12点を盗掘し密輸しようとしたとし懲役15年の実刑判決が下されました。イラクでは文化財の密輸の最高刑は死刑となっており、今回この英国人の男に対して厳しい判決が下されたのも、文化財の保護を積極的に進めるイラクという国の方針が反映されたと見ることもできます。

長引く戦乱の傷跡から今も回復の途上にあるイラクですが、この国がそういったネガティブなイメージから脱却しいつか観光立国として蘇ることを私も願っています。今後も発掘調査の経過を追っていきたいと思います。

  

 

Profile

著者プロフィール
牧野アンドレ

イラク・アルビル在住のNGO職員。静岡県浜松市出身。日独ハーフ。2015年にドイツで「難民危機」を目撃し、人道支援を志す。これまでにギリシャ、ヨルダン、日本などで人道支援・難民支援の現場を経験。サセックス大学移民学修士。

個人ブログ:Co-魂ブログ

Twitter:@andre_makino

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