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悠久のメソポタミア、イラクでの日々から

牧野アンドレ|イラク

クルドの新年ナウローズのお祝い

エルビル市内で掲げられるクルドの旗 ©筆者撮影

3月も後半に差し掛かったというのに、イラクの北部は未だに朝方は5℃を下回り、夜は暖房を入れる寒さが続いています。

昨年のこの時期は夜に窓を開け、日中もTシャツ一枚で過ごしていたことを考えると、今年の春は異例とも言える肌寒い日々です。

さて、ここイラク北部はクルド人が自治区を持つ地域(クルディスタン地域)で、中部・南部のアラブ人が主流の地域とは異なる文化や言語を持っています。そしてその最たるものが3月20日、「春分の日」にあたるナウローズというクルド人の新年でしょう。

今回はエルビルで経験した、このナウローズのお祝いの様子をご紹介します。

    

ナウローズってどんな日?

ナウローズ(クルド語で「新しい日」の意味)は毎年3/20、イランを発祥とするペルシャ暦(イラン太陽暦)の新年にあたる日です。私たちにとっても「春分の日」として馴染みのある日ですね。

もともとは「世界最古の一神教」とも呼ばれるゾロアスター教の文化がクルド人に伝わったと言われています。ナウローズと聞くと「クルド人のお祭り」という印象が強いですが、イランやアフガニスタン、タジキスタンなどといった地域でも一部コミュニティで祝われています。

この日は新年であるとも同時に、「春の訪れ」でもあるとされ、クルド人たちにとっては冬が終わり長い夏が始まる前の一時の幸せでもあります。

ナウローズでは火を象徴とする行事が多く(これもゾロアスター教の影響かもしれません)、そこら中でかがり火が焚かれます。アクレというクルド自治区の街では多くの人が松明を手に持ち山を登るという圧巻の伝統行事もあります。

近年ではクルド人たちの文化的アイデンティティを確認する場の意味も強く、世界中のクルド人たちが抑圧を受ける同胞たちを思い出す日という意味も持っています。

私自身、ギリシャの難民キャンプで過去に働いていた時に難民としてイラクやシリアを逃れた多くのクルド人が身近にいましたが、このナウローズの日のクルドナショナリズムの異様な高揚感は今でも鮮明に覚えています。

そんなクルドの新年ですが、今年は2722年に当たります。正直、このナウローズ以外でペルシャ暦を日常で実感することはないのですが、自分たちが身近に使っている西暦よりも長い年数を刻んでることにこの地域の長い歴史を感じます。

余談ですが、ここクルド自治区では西暦をメインに使い、それにイスラーム教のヒジュラ暦も使われ、さらにナウローズの時だけペルシャ暦も登場します。

「一つの地域で3つも暦が使われているなんて、世界にいくつかるのかなー」とよく考えたりします。3つも暦があるとその分祝日も増えるので、ここに仕事をしに来ている身としては喜んでいいのか仕事が進まないことを嘆いていいのかたまに分からなくもなります。

今年は新型コロナウイルスの流行により公式行事が2年間も中止となり、実に2019年3月以来のお祝いとなりました。

    

ナウローズをエルビルで体験!

例年、この時期は日中20℃を越してきて夕方もTシャツで過ごせるくらいの気候なのですが、今年のナウローズはひと味違いました。

とにかく寒い!以前の記事でも書きましたように今年は滅多に雪が降らないエルビルで積雪を記録し、雨も例年以上に多く降っています。

この日も最低気温は3℃。最高気温も12℃近くとコートが欠かせない天気で、「春の訪れをお祝い!」という気分にはなれない日でした(ちなみにこの記事を書いている一週間後の今も同じような気温です)。

そんなナウローズの日。せっかくのなので一番人通りの多い中心地に行ってみました。

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©筆者撮影

午後6時頃のエルビル中心地はいつも通りの活気。家族連れが多く買い物に来ていました。

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©筆者撮影

モスクの前にある噴水広場では、地元の企業が何か商品を無料で配っており、人が殺到していました。

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©筆者撮影

一週間ほど前から特設ステージが準備されていたエルビル城前。人通りも増えてきた印象。

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©筆者撮影

やはり特別な日だからか、クルドの伝統衣装に身を包む人やクルドの旗を持った人が多くいる印象でした。

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©筆者撮影

午後7時過ぎ、特設ステージからクルドの愛国歌が流れはじめ、お城をスクリーンにしたプロジェクションマッピングのパフォーマンスが始まりました。

その後、しばらくして花火も上がり始めます。寒かったこともあったのですが、その花火がすごい量で中心地全体が煙に包まれ始めたので急いで退散。

最後の方の花火は遠目から眺めていました。

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©筆者撮影

繁華街もいつも以上の賑わい。屋台のご飯を買い、市民たちは明るい夜の街を楽しんでいました。

全体の感想として、中心地の花火はすごいものでしたが、正直もっと多くの人を想定していただけにすこし肩透かしをくらった気分でした。

というのも、数年前の大晦日にもここ中心地に来たことがありお祝いを見ていたのですが、その時は人が多すぎて歩くのも大変だったことを覚えていたからです。

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エルビル中心地での大晦日のお祝い ©筆者撮影

後日、この違和感を友人に話したら、「ナウローズは家族で過ごすものだからね」と言っていました。多くの人は親戚一同集まって過ごしているとのことです。日本でいう、「クリスマスは友人たちと過ごして正月は家族で過ごす」という感覚に近いのかなと思いました。クルド人たちにとって西暦の大晦日は友人たちとバカ騒ぎをする場で、ナウローズは伝統として家族と一緒に過ごす日なのでしょう。

クルディスタン3年目にして、初めてちゃんとしたナウローズを体験することができました。

今後もイラク、そしてクルディスタン地域の独特な文化を胸いっぱいに体験していきたいです。

 

Profile

著者プロフィール
牧野アンドレ

イラク・アルビル在住のNGO職員。静岡県浜松市出身。日独ハーフ。2015年にドイツで「難民危機」を目撃し、人道支援を志す。これまでにギリシャ、ヨルダン、日本などで人道支援・難民支援の現場を経験。サセックス大学移民学修士。

個人ブログ:Co-魂ブログ

Twitter:@andre_makino

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