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ベネルクスから潮流に抗って

岸本聡子|ベルギー

ルーヴェンに市民参加型の都市計画『VORM3010』がやってきた

『VORM3010』 https://vorm3010.be/ より

首都ブリュッセルから25キロほど東にあるルーヴェンに私は住んでいる。歴史あるルーヴェン・カトリック大学があるおかげで、学生が多く国際色が豊かであるが、人口10万人の小さな都市だ。大学や鉄道駅、教会などがある市中心地を5つの地区が囲む。そのうちの一つの地区に住んでいる。

近所を歩いていたら突如現れた不思議なオブジェ(もしくはサイン)。「あなたの意見を聞かせて」とある。

vorm 3010 kessel lo.jpg

ルーヴェン市はソーシャリストの基盤が強い進歩的な都市のひとつだが、2018の選挙でモロッコ出身の若き移民2世が市長となり、緑の党が躍進して「赤(ソーシャリスト)と緑の連合」が成立して以来、多文化社会や環境(気候危機)がさらに重視されるようになった。

それだけではなく、スペインやフランスの革新的な自治体の新しい地域政治運動に感化されて、参加型・直接民主主義的な手法が模索されている。参加型民主主義的といってもピンとこない人も多いと思う。選挙での投票行動だけでなく、住民が直接市政、予算、計画などに直接参画する仕組みとでも言おうか。この度の私の体験からイメージが伝えられるかもしれない。

私は仕事ではこういう自治体の政策や実践を研究したり支援しているのだけど、自分の住んでいる街で住人として参加するのは初めてで、ワクワクときめいている。

VORM3010』は2年間の市民参加型都市計画作成のプロジェクトとしてこの2月に旗揚げした。都市計画の中で主に、モビリティー(交通・移動)と公共空間をどのように使うかというテーマが中心だ。今はその最初のステップとして、インターネットで9つの質問に回答することでだれもが意見を表明できる。

地域の政治や活動に強い関心と情熱を持ちながら私が地域ごとに主体的に関われないのは、単純に言葉の壁である。私はオランダ語がからっきしダメで、連れ合いに手伝ってもらって質問に回答しようと思ってた。ところがVORM3010』のサイトを見てびっくり。なんと、オランダ語と英語のバイリンガル対応。涙が出るほどうれしかった。学生が多く、外国人も多いルーヴェン。多様な参加を促進する市の本気度を見た。

肝心の質問はというと。

―どんな通りに住みたいですか? 家の前に車を止めたい⇔グリーンスペースや住人が集ったりこどもが遊べる通りがよい。

―居住地域は? 車が最短の距離をどこでも走れる方がいい⇔住人以外の通り抜けの車は迂回させる方がいい。

―市の投資は?森や緑地の保全を重視⇔街中の樹木を重視

―緑地の維持管理にはお金がかかりますが。住民が維持管理に関わって緑地を増やしたい⇔行政サービスでできる範囲の緑地でよい。

といったもの。

自家用車の利用や路上駐車、駐車場を優先したい人と、安全な自転車道路や樹木、住民のためのスペースを優先したい人と、利益は対立しやすい。

質問に回答しながら、現在のルーヴェンのモビリティーの割合は車60%、自転車20%、バス15%、歩行者5%、カーシェアリング0%であることも学んだ。私の理想のミックスは車20%、カーシェアリング10%、自転車40%、バス20%、歩行者10%と答えた。最後は、車、自転車、歩行者、公共交通の割合をどうしたいかの質問が続き、最後には自分の理想に近い3Dのイメージが示される。

3d.PNG

VORM3010』はこの一か月に渡る3Dインターネットのアンケートで始まった。サイトによるとつい先日、市は無作為抽出で2000人に「市民パネル」への参加の招待状を出したそうだ。このうち25人が選出されて「市民パネル」を形成し、アンケートの結果を専門家と共に検討する。その後、もう一度すべての人が参加できるアンケートが行われ、「市民パネル」に専門家が寄り添い、具体案を練っていく。その後、各地区が希望に沿っていくつかの案を試験的に「実験」する期間を経て、市全体への政策決定と投資が決まるという2年間の過程がサイトには書かれている。

自分の街で参加型都市計画の芽が生まれて、外国人である私も最初の一歩に参加できた。シンプルにうれしい。

ルーヴェン市は2030年までに炭素中立(CO2排出実質ゼロ)を実現するという野心的な政策を2013いち早く決めた。みんながみんな満足な政策というのはなかなかなくて、いろいろな利益が対立するのは当然だ。

この目標にどのように達するかを、政治家や専門家だけでなく住民の対話を中心に置いて決めていく。少し遠道に見えるが、より多くの住民が納得した案ができれば、変化は迅速に効果的に進むだろう。

 

Profile

著者プロフィール
岸本聡子

1974年生まれ、東京出身。2001年にオランダに移住、2003年よりアムステルダムの政策研究NGO トランスナショナル研究所(TNI)の研究員。現在ベルギー在住。環境と地域と人を守る公共政策のリサーチと社会運動の支援が仕事。長年のテーマは水道、公共サービス、人権、脱民営化。最近のテーマは経済の民主化、ミュニシパリズム、ジャストトランジッションなど。著書に『水道、再び公営化!欧州・水の闘いから日本が学ぶこと』(2020年集英社新書)。趣味はジョギング、料理、空手の稽古(沖縄剛柔流)。

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