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タックス・法律の視点から見る今のアメリカ

秦 正彦(Max Hata)|アメリカ

アメリカの「法の支配」ってワークしてる?

何の罪も犯してもない米国市民10万人以上を、先祖が特定の国から来たというだけの理由で、ある日、資産没収の上、一網打尽に環境劣悪な戦争強制収容所に送り込み、労働に従事させながら愛国心チェックのようなテスト。その辺の独裁国家の話しではなくアメリカの話しだ。(写真クレジット:Woodkern)

これって本当にアメリカの話し?

何の罪も犯してもない米国市民10万人以上を、先祖が特定の国から来たというだけの理由で、ある日、資産没収の上、一網打尽に環境劣悪な戦争強制収容所に送り込み、労働に従事させながら愛国心チェックのようなテストを受けさせる...。これって、その辺の独裁国家の話し?って思うかもしれないけど、僅か80年前のアメリカの話し。しかも対象となったのは実に117,000人に上る日系アメリカ人。米国の近代というか現代史で、法の支配が機能しなかった民主主義アメリカの最大の汚点だ。

第二次世界大戦で、日本からの移民、その子孫に対する国民感情が悪化し、ポリティシャンの多くもそれに応じて過激な策に出る。日本と同盟を結んでいたドイツやイタリー系のアメリカ市民に同様の措置は取られていない。ちなみに対象は日本人の血が16分の1以上の者と規定された。つまり、高祖父や高祖母、ひいひいおじいさんやおばあさんに日本人がいたら対象となるってことみたいだ。もちろん子女でも関係ない。

Warrenお前もか

最終的に日系市民を強制戦争収容所に送り込む法的措置となったのは民主党Franklin D. Roosevelt大統領による大統領令9066。法的に戦時には大統領府にかなりの権限が付与さている。また、後に最高裁の主席判事として従来の憲法解釈では存在が認識されていなかった様々な市民権を最高裁の裁量で認め始めた「Warren Court」で知られる共和党Earl Warrenが当時のカリフォルニア州司法長官(直後にカリフォルニア州知事に就任)だったけど、そんなWarrenも連邦議会のヒアリングで日系アメリカ人の収容所への移動を熱く主張していた。両人とも米国の高速道路や学校の学部に名を冠するなど、今日でも高名な政治家として知られている。ちなみに多くの日系アメリカ市民はカリフォルニア州を中心とする西海岸に住んでたので収容所もカリフォルニア州とかユタ州の僻地に設営されていた。

最後の砦となる最高裁は

で、前回のポスティングで触れたFred Korematsuだけど、強制収容措置は人権を保障する憲法に違反する不法行為だとして訴訟を起こす。そりゃそうだよね。だけど国民感情が悪化している中で正しいことを言うのは相当な勇気。整形してガールフレンドと州外に逃る途中で捕まったと伝えられている。う~ん、アンネ・フランクの日記みたいだ。

地裁、控訴裁を経由して最後は最高裁に行きつく。Korematsuケースは正確に言うと大統領令に基づく収容措置というよりは、軍による撤去令34の合憲性が争われたケースで、最高裁の判例もこの点にかかわるもの。原告が憲法のどの条項に違反しているって主張してたか、同時に進行してたMitsuye Endoケースとの関係、判決が公になるタイミングと収容所解散令の公表、とかテクニカルな論点は複雑でそれはそれで興味深い点が山積みなんだけど、ここではFred Korematsuの監禁は憲法違反で不法という訴訟だったとだけ言っておく。結果は6‐3(最高裁判事は9人)で国側の勝利。理由は戦時中の国家安全保障目的でやむを得ない、みたいなもの。

特筆すべきは反対意見を残した3人の判事の一人Robert Jackson。Jacksonは大統領令を出したRooseveltの親友で、Rooseveltに連邦司法長官、さらに最高裁判事に任命してもらったRooseveltの側近であり、Rooseveltは彼の恩人に当たる。連邦司法長官も最高裁判事も法律に従事する者としてはどちらも最高の栄誉だ。そんなJacksonが私見を捨てて、Rooseveltのポリシーに対して法的にダメ出しをしているのは最高裁判事の鏡的な存在と言える。Jacksonは、戦時中とはいえ、こんな無謀なポリシーに憲法適用の例外を認めてしまっては、いざというときに歯止めが効かず、国民感情がヒステリックになる毎にポリティシャンに悪用される前例となるリスクがあり到底容認できないとしている。振り返ってみると当然というか良識のある判断だけど、Heat of the Momentの渦中にRooseveltが見守る中、これを言うのは相当な勇気。

ちなみにこの手の訴訟は個人の名前で争われるけど、実態としては市民権団体みたいなところが仕切って進める。これは人種分離バス問題で有名なRosa Parksを始めとする他のハイプロファイルケースも同じで個人が独力で国家権力と争う訳ではない。

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Fred Korematsuは強制収容は憲法違反だという訴訟を起こし、地裁、控訴裁、経由で最後は行きつくところまで行き最高裁が上訴を受理。結果は6‐3で国側の勝利。理由は戦時中の国家安全保障目的でやむを得ない、みたいなものだけど、3人の判事は猛烈に反対。(写真クレジット:eric1513)

Korematsuのその後

戦争が終わり強制収容所から解放されたFred Korematsuは最高裁判断から40年が経過した1980年代に、当時の訴訟時に「日系アメリカ人は国家安全保障上のリスクではない」というレポートを国側が隠蔽し、証拠隠滅を働いたとして判決無効を勝ち取っている。収容所は1946年に閉鎖されたものの、Rooseveltの大統領令9066は1976年のFord大統領によりようやく正式撤回、さらに1988年には連邦議会は正式に謝罪、Civil Liberties Actを可決し、生存者約80,000人に一人当たり$20,000の民事損害賠償を支払っている。

Korematsuから学ぶべきこと

立派な憲法があっても、RooseveltにしてもWarrenにしても、また今日の議員たちも含むポリティシャンは国民感情に応えるため、今も昔もいざとなると法的に眉唾なポリシーを策定するリスク大。国民感情も戦争、テロ、疫病、その他の大事件が起こると過激に変化することが多い。そんな渦中の国民はピュアに正しいことをしていると信じてはいるんだろうけど、逆にそこが怖いところ。ヒトラーだって当初はドイツ国民の支持を得てた訳だから。

そんな時こそ、基本に戻り、落ち着いて憲法下で認められる措置なのかどうかの最終判断をするのが憲法の三権分立に基づく最高裁の機能。のはずだったんだけどね。しつこいけど、ポリシーとして戦時中に特定の市民を収容するべきかどうか、っていうのはポリシーマターなんで、そのポリシーに賛同するのかどうか、っていう判断は最高裁の仕事ではない。最高裁には今後も、ポリシーを策定する者、すなわち市民を代表する議会、大統領府、とかが憲法の範囲内で行動しているかどうかをチェックしてもらわないといけない、っていう重大な責任がある。今のアメリカもいろんな社会問題があり、過激な意見が出がちだけど、そんな時代こそますます最高裁には、本来の機能をその通りに果たすことができるか、っていう真価が問われる。

 

Profile

著者プロフィール
秦 正彦(Max Hata)

東京都出身・米国(New York City・Marina del Rey)在住。プライベートセクター勤務の後、英国、香港、米国にて公認会計士、米国ではさらに弁護士の資格を取り、30年以上に亘り国際税務コンサルティングに従事。Deloitte LLPパートナーを経て2008年9月よりErnst & Young LLP日本企業部税務サービスグローバル・米州リーダー。セミナー、記事投稿多数。10年以上に亘りブログで米国税法をDeepかつオタクに解説。リンクは「https://ustax-by-max.blogspot.com/2020/08/1.html

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