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タックス・法律の視点から見る今のアメリカ

秦 正彦(Max Hata)|アメリカ

New York Cityは復興(?) それとも暗黒時代(?)

マンハッタンの主要オフィス街Midtown以南はアメリカの全国オフィススペースの4分の1に至る床面積を誇る世界唯一無二の金融・メディアその他ビジネスセンター。千代田区より小さなエリアに東京の20倍のオフィススペースが集積している。ビジネスに加え、豊富なエンターテインメントを提供し、多様な民族で構成されるVibrantなコミュニティだが、コロナによるロックダウンでそんな究極のCity Lifeは完全にストップ。復興は可能だろうか。(写真Credit: Francis Mbuya)

Vibrantなシティーライフだったけど

NYC、特にマンハッタンはアメリカとしては極端に人口密度が高く、群を抜く量のオフィススペース床面積を提供する金融センター・ビジネス街であると同時に、ブロードウェイ、ミュージアム、自由の女神その他多くの観光アトラクションを提供し、生活面では多様な民族がひしめき合うVibrantな街だ。当然、それらのビジネスや観光を支える多くのサービス業、レストラン、バーがマンハッタンに集結してる。地盤が大きな岩ひとつでできてるんで高層ビル建築に最適と言われるマンハッタン島。島全体でも東京山手線の内側に匹敵するこじんまりしたサイズだけど、オフィスやお店の多くはその中でも更に10分の1程度の面積を占めるMidtownそよびその南のLower Manhattanに集積している。

個人的にも、東京、香港、カリフォルニアで暮らしたり、いろんな都市に滞在した経験があるけど、マンハッタンのなんとも言えない喧騒やエナジーは他では味わうことはできない。他の街から来るとスペースがなかったり、気候もいいとは言えないし、夏は実際臭いし、混沌としてて、すぐに好きになれない人も多いと思うけど、しばらく住んでみると中毒になる場所。Yoko Onoみたいにマンハッタンから出ると外国に来たみたいな気分になる住人も多いだろう。香港も、その喧騒ぶりや密集度には近いものがありエネルギッシュだったけど、マンハッタンはより多様な民族が一緒に暮らしてるっていうダイナミクスが溢れてる。

高い人口密度

マンハッタンの人口密度だけど、単位面積Km²当たり約2万6千人。United States Census Bureauによる国勢調査データって古かったりするんで正確な数字じゃないけど、サンフランシスコが6千人台、シカゴが4千人台だからマンハッタンは圧倒的に人が密集してる。アメリカ平均だと30人台(笑)。分母にモンタナ州とかワイオミング州とか一日フリーウェイ飛ばしても誰にも会わない(?)ような広大な土地が含まれるからね。ちなみに東京23区は1万5千人だから結構密度が高い。香港に住んでた頃、尖沙咀や旺角当たりは密集してるな~って思ったけど、意外にも平均では6千人台とのこと。まあ、香港って言ってもNew Territoriesとかも含まれてるし、香港島だって真ん中は山で、Parkview(陽明山荘!)の辺りは相当広々してたしね。東京だって豊島区とか特定の地域はさらに密集してたりする。まあ、この手の凹凸はマンハッタンも同じことなんで、比較検討は方向的な話しって考えておいて欲しい。

オフィススペース床面積

マンハッタンのオフィススペース床面積も凄まじい。ニューヨーク州のComptroller、この用語いつも訳すのに苦労するけど検査部(?)、によると、マンハッタンにある3つの主要オフィス街、Midtown、Midtown South、そして金融街のLower Manhattan、すなわちマンハッタンの59th Streetより南全域、のオフィススペース床面積はナンと4憶5千万スクエアフィート。平方メートルに直すとザックリ4,180万になるはず。アメリカのオフィススペースの4分の1をあの狭いエリアでカバーしているそうだ。この床面積はアメリカ2位のシカゴの3倍、ロンドンの2倍。コロナになるまでは需要も高く、Hudson Yardとかアメリカ史上で一番高価な商業施設開発プロジェクトも完成したばかりだった。

東京のオフィス床面積を調べようと思ったけど、比較可能性がありそうな数字がすぐに出てこなかった。森トラスト株式会社の動向調査によると2020年の「大規模オフィスビル供給量」は200万平方メートルで、中規模ビルは10万弱。全てのオフィススペースじゃないんで、Apple-to-Appleじゃないけど、これだけだとMidtown以南のマンハッタンの3エリア、面積としてはおそらく千代田区一区より小さいエリアで東京23区の20倍のオフィススペースが詰まってることになる。面積ってSQFT、SQKM、SQMやヘクタール、挙句の果てには坪表示だったり、比較検討がチャレンジング。さっき、人口密度はマンハッタン2万6千人って書いたけど、オフィスが多いんで日中は近郊からの通勤、さらに市外からの観光客等で250万人程度プラスの昼間人口が存在するって言われている。どうりで混んでた訳だ。これら諸々の不動産や経済活動から徴収される税金やワーカーの消費にかかる売上税、その他の経済効果は絶大だ。

Park Ave.jpeg

オフィスは3月からクローズ。テレワークに移行してしまったオフィスワーカーは暫く敢えてオフィスに戻って来る気配はないし、閉鎖に追い込まれるビジネスも多い。9月中旬に50th辺りからPark Avenueを南に。向こうにはMet Lifeビル(昔のPan Amビルだ。古すぎて知っている人はいないかもね)。(写真 by Max Hata)

長引くオフィス閉鎖と途絶えた観光客がNYCサービス業を直撃

で、何が言いたいかと言うと、これだけの規模のオフィスや観光が急に6か月全面的にシャットダウンさせられ、しかも再開の目途がなかなか立たないとしたら、そのネガティブな経済効果は計り知れない、ということ。容易にテレワークに移行してしまったオフィスワーカーは暫く敢えてオフィスに戻って来そうにないし、ブロードウェイだっていつショーを再開できるか未定。レストランも夏に細々とリオープンさせてもらえたものの、未だに屋外以外でのIn-Diningは禁止。人口密集Cityライフを前提としたサービス業ビジネスモデルが全て裏目に出てる。他にもいろんな事情で、NYCの経済再始動のペースは全米でも遅い。

元々、他の米国の都市と異なり、NYCは街のつくり的にSpaciousな屋外で食事みたいなセットアップになってない。急に「屋外だったらOKですよ~」って言われても、軒下や自分の店の前のストリートに無理やりせり出していくつか即席テーブルをセットアップする位が精一杯。ストリートの作りや店の構造的にそれすらできないところだって多い。しかも9月でも既に大分涼しくなってきて、屋外ダイニングもよほど性能がいいFree-Standing Heaterみたいな真下にでも案内されない限り、後一月もしたら厳しいかも。コートとかヒートテック着まくってディナーじゃチョッと我慢大会みたいだし。

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他の米国の都市と異なり、NYCは街のつくりがSpaciousな屋外での食事が難しいセッティング。軒下や店の前のストリートに無理やり即席テーブルをせり出すくらいが精一杯。9月でも大分涼しく、屋外ダイニングは後一か月もすると我慢大会になり兼ねない。ようやくリオープンの許可が下りても、屋外だけでは経営は厳しい。9月中旬のMidtown Eastの一部、E. 53rd Streetの3車線を1車線にしてストリートで「In-Dining」。3から1車線って少なくなったように感じるかもしれないけど、どうせ普段から両側は違法駐車のトラックとかでごった返してるんで結局車線数は同じ。みんな頑張ってるんでこっちも 頑張ってできるだけお店通い(?)。(写真 by Max Hata)

10月からは25%キャパシティー制限で屋内In-DiningもOKになるらしいけど、レストランを含む小規模ビジネスのキャッシュリザーブは平均1か月程度だから、6か月もの間クローズしてた上に、リオープンしても限定的なキャパでCash Inflowは減り、逆に屋外のテーブルだの、タッチレス・オーダー、秋に備えて屋外ヒーターだのコロナ対策でCapex系のCash Outflowは増えてるだろうから、PPPローンとかで急場を凌いできたとしても経済的にとても採算が合わない。2度とオープンできずに廃業に至るレストランや事業も多いだろう。ベーカリーのMaison Kayserはついに破産法申請してNYCの16軒ある全ての店舗閉鎖すると言われている。ショック。Maison Kayserに関しては次回もう少し触れるね。

治安悪化・住み易さ度合い低下

そんなこんなの数か月、NYCでは犯罪率が急上昇。NYPD調べで、8月1か月の銃犯罪件数は昨年同期の91件に対して今年はナンと242件。他の数字で入手できる6月の統計を見ても殺人30%増、空き巣118%増、車上荒らし51%と軒並み悪化している。実際に暮らしてたらそんな統計を見るまでもなく、街の劣化、住みやすさの低下はすぐに肌で感じることができる。市長がBloombergからDe Blasioに変わった後から、市の政策が変わり、ミッドタウン、特にPenn Stationからうちのオフィスがある(あった?)Times Squareの辺りでは、浮浪者が増えたり、またマンハッタンのあちこちにある小さい公園とかの衛生状態は全体に低下気味で、Bloomberg時代の整然とした感じは徐々に消えていった感はあるけど、それでもコロナ前はNYCの好調な経済に支えられて日常の生活に影響を感じることはなかった。それがここにきてかなり悪化。

街からオフィスワーカーが消えて閑散としているところに、コロナ感染の懸念から囚人を刑務所から解放、保釈金制度を改定して逮捕された被疑者の留置が困難となりそのまま釈放されたり、マンハッタンの住宅地に位置するホテル複数を市が借り切ってドラッグ常習者や浮浪者に提供したり、略奪や暴動の爪痕がところどころ残っていたり、Public Spaceは昼間から浮浪者のたまり場になっているところもあり、道でトイレしたり、ドラッグしたり、チョッと安心して経済活動開始って環境ではない状況に変わっていくようなエリアもある。

NYCからエクソダスとビジネス界からの緊急提言

そんな状況に耐え兼ね、NYCから脱出しているファミリーやビジネスが急増してるって聞くし、実際に家賃は下がり気味で(それでも高いけどね)、ビルの下のパーキングのおじさんの話しだと、Monthlyのパーキング契約の解約が相次いでるらしい。惨状に見かねて、160社以上のアメリカを代表する著名ビジネスで構成される「Partnership for NYC」が「従業員、顧客、クライアント、訪問者のいずれも、NYCが安全で衛生的な(原文はHealthyだから健全っていうようなニュアンスあり)環境に戻らない限り街に戻ることはできない」という明確なメッセージを市長De Blasioに伝えるため、「街の安全、居住適合性(Livability)を至急改善してもらわないと、NYCには戻れない」と書簡を送っている。警告というか懇願だ。Partnership for NYCは7月にもどのようにNYCをジャンプスタートさせるべきかを「Call for Action and Collaboration」という提言で公開している。そこには230,000ある小規模ビジネスは2度と戻らないかもしれないと警鐘を鳴らしている。ちなみにこのPartnership for NYCにはNYCにオフィスを構える大手日本企業も複数加盟している。

De Blasioは、以前から「あいつらの手にお金があるのはおかしい(「the money is in the wrong hands」)」とか言って、大手ビジネスや真面目に働いて高額の市所得税を支払っている住民を敵視・軽蔑する傾向があり、この手のビジネス界からの懇願をどの程度シリアスに受け止めるか不明。ただ、このままではせっかくGiulianiとBloombergが20年かけて世界でも最も安全な街にトランスフォームしてくれたのに、また80年代の危ないNYCに戻り兼ねない。思想スタンスはともかく、基本的な安全や生活環境が保障されないと街の繁栄はありえないし、De Blasioが再分配したい富も、結局は「Wrong hands」の手から税収として徴収しないと分配するものがないんだから頑張って経済を牽引してくれるビジネスがなくなってしまっては元も子もない。街が劣化して得する市民はいない。その辺、しっかり理解して市政を司ってもらいたい。しかも「Wrong hands」の富裕層の多くは慈善活動を通じて街の病院、公園、その他のインフラ作りに大いに貢献している訳で、そういう市民やビジネスも同様に大切にしないとね。

その点、同じ民主党でも州知事のCuomoはもう少し現実的で、富裕層やビジネスに早くNYCに戻るように「一緒にディナーしよう」とかまで言って訴えてるけど。De Blasioは富裕層に街に戻るようなインセンティブを与えたり、媚びる(?)つもりはない、ってことなんで、むしろ更なる高税率を課すような対応になるんだろうか。古代都市ローマの崩壊前に、高税率や思慮に欠けるポリシーで市民が郊外に逃げて行ったみたいなことにならないようにね。1,500年経っても、なんか人って変わんないね。

NYCや都市は復興できるか?

個人的には、舵取りを大幅に誤らない限り、復興すると確信している。人は昔から他人とインターアクトしたり、ハブとなっている都市に旅してカルチュラルな体験をしたりするのが好きだ。いろんな価値観の人たちと数限りないレストランで食事しながら感性を高めたり、交友を温めたりするのも好きだし、刺激的な人たちが集まる都市で直々にインスパイアされたり、短期的な障害を乗り越えて国際都市ならではのプラス面が復活するだろう。NYCも含めアメリカは、最終的にはVibrantで逆境に強いプライベートセクター、民間部門、がイノベーティブに建て直してくれると信じてる。政府はイノベーティブさやセンスに欠けることが多いので、経済復興までは、余計な規制や高税率を課したりして市民や事業主をこれ以上、苦しめることなく、思う存分活躍できる環境作りに専念して欲しい。暗黒時代なんかにならないようにね。

 

Profile

著者プロフィール
秦 正彦(Max Hata)

東京都出身・米国(New York City・Marina del Rey)在住。プライベートセクター勤務の後、英国、香港、米国にて公認会計士、米国ではさらに弁護士の資格を取り、30年以上に亘り国際税務コンサルティングに従事。Deloitte LLPパートナーを経て2008年9月よりErnst & Young LLP日本企業部税務サービスグローバル・米州リーダー。セミナー、記事投稿多数。10年以上に亘りブログで米国税法をDeepかつオタクに解説。リンクは「https://ustax-by-max.blogspot.com/2020/08/1.html

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