
NYで生きる!ワーキングマザーの視点
AI時代の波を乗りこなす。ニューヨークで戦うWebデザイナー・デジタル・クリエイター山田恵が語るサバイバル術

「アメリカンドリームを実現するために来ました。ウェブ業界で自分の力を試してみたかったんです。」
そう語る山田恵がニューヨークでキャリアを切り拓き始めたのは2000年。Bcrossing, Inc.でクリエイティブディレクターとして情報設計とインターフェース開発を担当したのが原点だった。
「2001年にBlueBeagle, Inc.を立ち上げ、ブランディング戦略で国際展開に成功した経験が"自分で考えたデザインや戦略を実際に試せる面白さ"を教えてくれました。
2006年から現在は、 Nimbus Works, LLCを立ち上げ活動しています。理由は、"新しい戦略を自分で立てて、AIなどの最新技術をすぐに試せる自由さ"が最も大きいからです。」
現在もクライアントとのコミュニケーションは順調で、様々な業界のクライアントを抱えている。
「プロジェクトは、まずクライアントの目標とKPI(目標としている成果)を丁寧にヒアリングするところから始まります。ここで"何を達成したいのか"をすり合わせることで、あとの作業をスムーズに進める土台を築きます。
次に、サイトの骨組みとなるワイヤーフレーム(設計図)を作成し、レイアウトやページ構成を示します。クライアントからのフィードバックを反映しながら構成を固めたら、デザインモック(画面イメージ)へ移行。ここでは実際のユーザーに操作してもらい、使いやすさをテストします。
ユーザーテストで得た意見を反映しつつ、WordPressをベースにコーディングを進め、サイトを組み立てます。完成前には入念に動作テストを行い、不具合がないことを確認。公開後は運用マニュアルをまとめて納品します。
また、Basecamp(進捗管理ツール)上で毎日の進捗情報を共有し、『今どこまで進んでいるか』を常に"見える化"しています。用語についてもBasecampで説明し、専門用語による認識のズレを防いでいます。
案件の獲得は過去のクライアント紹介が中心ですが、LinkedInでの情報発信やダイレクトメッセージによるアプローチも行っています。信頼と実績をもとに、自然と次のプロジェクトにつながっていくスタイルです。」
とはいえ、山田がここまで起業家として成功するまでの道のりは、たやすくはなかった。
「20代の頃から日本でいろんなデザインの仕事を経験したあと、やっぱりウェブの本場・アメリカで力を試したくなったんです。」
そうして渡米したが、最初に就職した企業はわずか3ヶ月で吸収合併され、チームも解散するという波乱のスタートだった。
「『これからだ!』と思った矢先にチームが解散してしまい、そのときのショックは今でも忘れられません。」
その後、就職活動も経て、"どうせなら自分たちで始めた方が面白い"と仲間と共に起業へと踏み出すことになる。
「アメリカでは1ドルから会社が立ち上げられる仕組みに驚きました。ただ、資金が少なくても、実力やしっかりした仕組みがなければ続けるのは難しいです。」
2011年から今日に至るまで、非営利団体JANET(American Dream Japanese Network)のウェブリニューアルも担当。コミュニティ構築の視点からUX設計し※1、ユーザーの離脱率を大幅に改善できた点が特に印象深いという。
「ニューヨークならではのトレンドは、多様性を反映したカラーパレット使いと、スクロール連動アニメーションの大胆さ。特にラテン系の鮮やかな配色には常に刺激を受けます。」
こうした背景もあって、常に最新の技術やトレンドにも敏感だ。
「最近は、AIで作るアートとWebGL※2を組み合わせたインタラクティブなデザインに注目しています。また、半透明のレイヤーや背景のぼかしを使った"Glassmorphism"や、ダークモード向けのデザイン最適化にも興味があります。」
「ツール面では、GPT-o3、Claudeを使ってワイヤーフレームからビジュアルラフを作成し、ローカル開発環境でHTML/CSS/JavaScriptを実装。CMS構築にはWordPressを使い、パフォーマンスはGoogle AnalyticsとSearch Consoleで計測しています。」
「私が最も大切にしているのは"ブランドの物語をいかに瞬時に伝えるか"という点です。新しいサイトでは、ファーストビューに短い動画や視差スクロールを取り入れ、3秒以内にユーザーがブランドの世界観に入り込める仕組みを設計しました。」
一方で、AIやノーコードツールの活用も日常的だという。
「最近はコードを書かずにサイトを作れる『ノーコード』ツールもよく使っています。運用のしやすさを重視するならWebflow、立ち上げスピードを重視するならWix Studioを選ぶことが多いです。もし、データベース連携など少し複雑な機能が必要な場合はBubbleを、AIを活用した高速構築が必要なら、AIアシスト機能が強化された新世代のWordPress.comも選択肢にはいりますね。
プロジェクトの規模や目的に合わせて、最適なツールを使い分けることで、お客様にとって一番使いやすいサイトを素早く提供しています。」
ただ単にツールを使うのではなく、それらを「誰のために、どんな体験を届けるか」という視点で選び抜くのが山田流。すべては"ビジュアルとストーリーの統合"という信念のもとにある。
「数字やデータだけじゃなく、訪問者の感情までをデザインで導く。それを常に意識しています。」
仕事の進め方も緻密で、ヒアリングからKPI設定(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)、デザイン・ユーザーテスト・開発・納品までを一貫して行い、週次レポートや用語集を用意して、クライアントとの認識ズレも防ぐ。案件獲得は、紹介とLinkedIn経由でのコンタクトとDM(ダイレクトメール)が中心。日々のスケジュールには、朝のSlackチェックから夜のAIツール検証までがびっしりと組まれている。
「これからはAIでの初期生成が当たり前になるので、重要なのはAIに的確に指示を出す"プロンプト設計※3"と、ユーザーが使いやすく成果につながる"戦略的なUX設計"です。」
そして何より人間同士の「コミュニケーション力」の重要性を強調する。
「アメリカでは性別や年齢に関係なく実力が評価されるので、自分を信じて挑戦できる文化が魅力的です。オフライン・オンライン問わず、Meetupやカンファレンス、Discordなどのコミュニティにも積極的に参加しています。」
そして最後にこう付け加えた。
「失敗しても必ず学びに変えます(笑)。毎週新しいツールを試して、その可能性を確かめ続けることが、クリエイターとしての生き残り方だと思っています。」
※1. UX設計:User Experienseユーザー・エクスペリエンス、「ユーザーが感じる体験全体」をデザインすること。わかりやすさ・使いやすさ・快適さ・ストレスの少なさなど、サービスを通じた心地よい体験をつくる設計。※2. WebGL:ブラウザ上で3Dや2Dのグラフィックスを高速に描画できる技術で、インストール不要・JavaScriptだけでインタラクティブなビジュアル表現が可能になります。
※3.プロンプト設計:AIに適切な回答を引き出すための「質問や指示文(プロンプト)」の工夫のこと。目的・対象・出力形式・トーンなどを明確にすることで、より正確で役立つ答えを得られるようになります。
山田 恵(Yamada Megumi)
Nimbus Works, LLC 社長兼コミュニケーションディレクター。20年以上にわたり、多様な業界のウェブプロジェクトをリードし、非営利団体からスタートアップ、ECサイトまで幅広いクライアントに信頼される。AIやノーコードを含む最新技術を取り入れたクリエイティブ戦略で、ブランドの個性を最大化。UI/UX設計からサイト構築、運用フォローまで一貫して手がけるほか、自社主催のセミナーやワークショップを通じて実践ノウハウを共有。オンライン取引の効率化や顧客エンゲージメント強化を通じて、クライアントのビジネス成長に貢献している。AI×UXに関するクライアントへのアドバイスも活発に行っている。

- ベイリー弘恵
NY移住後にITの仕事につきアメリカ永住権を取得。趣味として始めたホームページ「ハーレム日記」が人気となり出版、ITサポートの仕事を続けながら、ライターとして日本の雑誌や新聞、ウェブほか、メディアにも投稿。NY1page.com LLC代表としてNYで活躍する日本人アーティストをサポートするためのサイトを運営している。
NY在住の日本人エンターテイナーを応援するサイト:NY1page.com