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NYで生きる!ワーキングマザーの視点

ベイリー弘恵|アメリカ

1ミリが美を決める!NYコレクションを支える日本人テクニカルデザイナー森山愛子

©Manami Moriyama *同記事掲載の写真すべて

「極端にいうと、デザイナーがいなくても、服を作ることはできるのです。」そう語るのは、ニューヨークでテクニカルデザイナーとして働く森山愛子(もりやままなみ)さん。子どもの頃からファッションの世界に憧れ、親に「行くならニューヨークやパリ、ロンドンみたいな"本場"に行きなさい」と背中を押された。高校卒業後、彼女が選んだのはニューヨークだった。

学費の関係で、まずはコミュニティカレッジからスタート。英語力を磨きながら、少しずつ専門分野に近づいていく。最終的に彼女が進んだのは、Fashion Institute of Technology(FIT)のテクニカルデザイン学科だった。

きっかけは、コミュニティカレッジに出張で来ていたFITの教授が「あなたにはこっちが合ってるかも」と言ってくれたこと。その先生がのちに学科のチェアマンだったこともあり、流れに導かれるように進んだという。

当初はファッションデザイン専攻だった愛子さん。しかし、「何でもあり」で自由すぎる世界よりも、「ルールや基準があるほうが私にはやりやすい」と感じるようになった。ミニスカートなら何センチまで、ステッチは1インチに何針入るか。そうした具体的なルールがあるテクニカルデザインに、彼女は強く惹かれていった。

デザイナーが持ってきたアイデアを、どう現実に落とし込むか。フィット感の調整、縫製の指示、コスト管理、人の体型や好みに合わせて、微妙なラインを整えていく。1センチ、いや、5ミリの違いが美しさを左右する世界だ。AIではまだまだ追いつけない分野なのだとか。

「服のフィッティングは人それぞれです。肩の傾斜、骨格、着たときの"着心地"など。それらすべてを見て、調整し、仕上げていくんです。」

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ニューヨークのファッション業界のチームワークに関しては、それぞれの職種において活躍する人々の傾向や得意分野に違いがあることを、愛子さんは感じてきた。クリエイティブなタイプの人がアイディアを発信し、人前で話すことが得意な人たちが表に立ち、一方で、緻密さや責任感を大切にする人々が、ものづくりの現場を支えていることが多いという。

「どれだけきつくても、任された仕事はやりきる。誰かが見ていなくても、仕上げるのが当たり前なのです。」その姿勢が彼女に対する高い評価、信頼につながっている。Marc Jacobsでは、ランウェイショー前の2週間は毎晩おそくまで作業。会社からディナーが出るほどの集中体制だった。

こうした大変さをものともせず、彼女は「人に恵まれていた」と振り返る。「NYという場所を知ったのも、母の友人がNYに住んでいたことがきっかけであったり。幼少期から英語に親しみ、英検を受け、元国際線のCAだった先生に楽しく英語を学んでいました。それも今の自分につながっています。」

高校の担任の先生の紹介で入った学校、FITで出会った先生、インターン先で出会った人たち、NYファッション業界でつながった人たち、そんな"人とのご縁"が、ファッションの世界へ進みたいという彼女の夢を実現するまでの道を照らし、実際にニューヨークのファッション業界で働き続ける力を与えてくれた。

「だからこそ、今度は私が誰かを助けたい」。日本で生きづらさを感じている人に、NYという選択肢を見せたいという思いがあるのだという。「ビザサポート、インターンの紹介、住む場所のアドバイスなど、自分がしてもらったことを、次は誰かに返していきたいです。」と話す。

「日本の常識に当てはまらないと、はじかれる。でも、NYなら、いろんな"当たり前"がある。その事実を知るだけで、少し楽になる人もいると思うのです。」身近な人が学校や会社に馴染めなかった話も聞いた。頼れる人がいなかったという。そのとき思った。「私が誰かの"心のよりどころ"になれたら」。

いま彼女が働くR13はスタートアップで、みんなで協力してモノをつくる中小企業的な温かさがある。Marc Jacobsでの5年間を経て、ステップアップのために選んだ新しい環境。そこでも彼女は、みんなとのチームワークで、服をつくっている。

「日本でダメだったからって、世界でもダメなんてことはあり得ません。」世界は広い。自分が見ているものがすべてじゃない。その視点を新しい世代へと伝えることが、彼女の新しい目標になっている。

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【プロフィール】
森山愛子 (もりやままなみ)
2014年大学進学を機にNYへ留学。コミュニティカレッジからFITへの編入後、テクニカルデザインを学ぶ。Marc Jacobsでインターンを開始し、FIT卒業後もフルタイムとして務める。現在ではR13にて、※1RTWカテゴリ (woven, cns, knit, leather)のテクニカルデザイナーを務める。

※1(RTW:Ready to wear)既製服の布帛、コート・スーツ、ニット、レザー製品。

 

Profile

著者プロフィール
ベイリー弘恵

NY移住後にITの仕事につきアメリカ永住権を取得。趣味として始めたホームページ「ハーレム日記」が人気となり出版、ITサポートの仕事を続けながら、ライターとして日本の雑誌や新聞、ウェブほか、メディアにも投稿。NY1page.com LLC代表としてNYで活躍する日本人アーティストをサポートするためのサイトを運営している。

NY在住の日本人エンターテイナーを応援するサイト:NY1page.com

ブログ:NYで生きる!ベイリー弘恵の爆笑コラム

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