コラム

国民生活に深刻な影響を与えるビックテック規制の議論を公開せよ

2023年06月16日(金)16時11分
岸田首相

ビックテック規制を推し進めるトンデモ規制が政府のデジタル市場競争会議で進められている......Eugene Hoshiko/REUTERS

<政府で「AppleやGoogleの一定規模以上のモバイルOS提供者が提供するプラットフォームをアプリ開発事業者に強制的に開放させる規制」に関する議論が行われている。一見、良い規制にも見えるのだが・・>

ビックテック規制を推し進めるトンデモ規制が政府のデジタル市場競争会議で進められている。いつも通りの政府の「ためにする」会議の一つのようなもので、6月中にも公表される可能性が高い新しい規制を作成することを正当化するためのものと言っても過言では無いだろう。

だが、同会議は直近の令和5年5月19日、6月2日及び6月9日の事務局提出資料である「これまでの議論を踏まえた論点整理」は「非公開」となっている。国民の税金を使って議論する会議、しかも国民生活に甚大な影響を及ぼす可能性がある会議の資料が非公開となっていることに驚きを覚えざるを得ない。

では、デジタル市場競争会議ワーキンググループでは一体何が議論されているのだろうか。

同会議では「AppleやGoogleの一定規模以上のモバイルOS提供者が提供するプラットフォームをアプリ開発事業者に強制的に開放させる規制」に関する議論が行われている。

同様の規制は既に欧州によって導入されており、バイデン政権や米国連邦議会によって検討されている。政府は欧州によって導入されていることを錦の御旗とし、同規制の導入を進めるためのエビデンス作りのために会議を重ねている。

この規制が導入された場合、アップストアで他社サービスの使用許可を義務付けることで、iPhoneでアップストア以外のアプリストアを利用できるようにし、アプリ開発企業の同社に対する支払手数料を低減することが狙いだ。従来までの独禁法の文脈は消費者利益の侵害を問題にしてきたのに対し、新規制はプラットフォームの出店企業に対する企業影響力の行使を重く見る内容となっている。

一見良い規制のように見えるのだが......

一見すると、巨万の利益を貪るビックテックに制裁を加えることで、アプリ開発事業の負担を軽減する良い規制のように見えてしまうが、実はこの新規制は規制導入の合理的な理由も欠如しており、技術革新を阻害し、更にセキュリティリスクを高めるトンデモ規制である。

Appleは令和5年4月4日に同ワーキンググループで実施されたプラットフォーム事業者からのヒアリングの場で、理不尽な規制導入を進めようとする政府に対し、反論文書として35Pに及ぶ意見書を提出した。昨年に同会議が新規制導入の論拠をまとめた中間報告書について、「合理的な根拠ない」ものとし、「裏付けのない主張と憶測的な懸念から導き出された、技術、製品設計、および競争上の影響に関する結論」であると切って捨てている。その内容は実に理路整然としており、日本政府の規制議論がいかに中途半端なものであるかが良く分かる。興味がある人は是非一読してみてほしい。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

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