コラム

安倍元首相の国葬の意味とは──世界各国の国葬事情から

2022年09月02日(金)11時30分

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

<世界各国で国葬の対象となる人物とは......。今回の国葬は日本の立ち位置を国内外に示す外交的なイベントとなるだろう>

9月27日に日本武道館で安倍晋三元首相の国葬が行われる。国葬は世界各国から国賓が参加することを通じ、国葬開催国の国力を全世界に示す一大イベントだ。そして、その国のお国柄を反映するイベントでもある。

米国の場合、原則として大統領経験者が亡くなった場合、国葬が執り行われることになる。例外としては、ウォーターゲート事件で退任したニクソン大統領が国葬を辞退したケースがある。また、マッカーサーなどの軍人も国葬の対象となった。米国には国民の代表かつ戦時の指導者を奉る文化があると言えるだろう。

世界各国で国葬の対象となる人物とは

では、その他の国ではどのような人々が国葬の対象となるのだろうか。イギリスでは、英国王室関係者が国葬の対象となるのは当然であるが、政治家、軍人、哲学者、科学者、詩人など、その対象は意外に広いものとなっている。

フランスも元首級の国葬は定番であるが、さらに文化面に寄った形で、作曲家、劇作家、慈善活動家などが含まれることになる。

ロシア、中国、北朝鮮などでは序列上位の人々が国葬対象となる慣例があることは容易に想定され得ることだが、ロシアの場合は科学者や宇宙飛行士などもその対象となるなっている。更に、ブラジルがF1レーサーのアイルトン・セナを国葬対象にしたことも実に興味深い事例だ。

そのように考えると、国葬の対象となる人物は元首級の人物が亡くなった場合だけでなく、その国のカラーを代表とする人々も含まれると考えたほうが良いだろう。つまり、葬儀という形態ではあるものの、自国の世界的なブランドイメージを形成する式典と言い換えても良いかもしれない。

吉田茂が国葬の対象となった事例から

日本の場合、第二次世界大戦後、天皇・皇后の大喪の礼以外で国葬が行われた事例として、吉田茂が挙げられる。吉田茂は言わずと知れた大宰相であり、戦後日本の歴史を西側の自由民主主義国側で行くことを決定づけた人物だ。

吉田茂の国葬にも反対の声はあったものの、概ね日本国民は受け入れて粛々と国葬は執り行われたという。また、国家の儀礼ということもあり、特定の宗教色もなく淡々と弔辞が読み上げられる形で行われたようだ。

首相在任期間を基準とした場合、安倍晋三元首相を除ければ、連続在任期間、通算在任期間のいずれも必ずしもトップではない。したがって、首相として長期間在任したことを持って国葬の対象とする慣例があるとは言えない。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

台湾TSMC、3ナノ最先端半導体を熊本で生産 会長

ワールド

トランプ氏は米民主主義の根幹攻撃、国際人権団体が年

ビジネス

EXCLUSIVE-米アマゾン、テレビ・映画制作に

ワールド

グリーンランド、1月の気温が過去最高 漁業や鉱業に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 3
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流していた? 首相の辞任にも関与していた可能性も
  • 4
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 5
    ユキヒョウと自撮りの女性、顔をかまれ激しく襲われ…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 8
    アジアから消えるアメリカ...中国の威圧に沈黙し、同…
  • 9
    電気代が下がらない本当の理由――「窓と給湯器」で家…
  • 10
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story