コラム

何故、日本がウクライナ問題でロシア制裁に同調すべきでないか

2022年01月27日(木)17時11分

岸田政権は対ロ制裁について独自の判断を迫られている...... Yoshikazu Tsuno/REUTERS

<岸田政権が、ウクライナ問題でロシアに対して安易な制裁を欧米とともに行うべきかは思案のしどころだ......>

ウクライナ国境にロシア軍が集結し一触即発の状況が継続している。米国はロシアに対して強力な制裁措置を発動することを警告し、ロシア軍のウクライナ侵攻が発生した場合、米軍の速やかな展開を実現できるように動いている。

この問題に対して、岸田首相は1月21日のバイデン米大統領とテレビ会談で「強い行動をとるか、調整・検討する」ことで協議している。だが、肝心の当事者である欧米の足並みが乱れており、日本の岸田政権は対ロ制裁について独自の判断を迫られていると言って良いだろう。

米国やドイツなどは腰が引けた状態

実際、欧米がウクライナ問題に関してどこまで本気かは極めて疑問だ。

1月19日、バイデン大統領は「(ロシアが)小規模な侵攻をした際に欧米は難しい対応を迫られる」と記者会見で発言し、現状でロシアが影響力を行使できるウクライナ領でのロシア軍の進駐を容認する可能性を示唆した。これはバイデン大統領の本音が漏れたと見るべきだろう。

また、1月21日にドイツ海軍トップのシェーンバッハ総監がニューデリーで開催されたシンクタンクの会合でロシアのウクライナ侵攻を「馬鹿げている」と発言し、その後激しい批判にさらされて立場を更迭される事態が発生した。やはりこちらも独軍の本音が吐露されたと見做すべきだ。

欧米の建前はともかく、その本音はロシアと過度に揉めたくないというのは明らかだ。

米国はインド太平洋地域への軍事的シフトを進めており、東欧や中東において戦線を拡大することを望んでいない。プーチン大統領に対しても当初から対話路線でのアプローチを実施してきており、その姿勢には現在に至っても大幅な変更があったようには見えない。ドイツは気候変動対策や環境政策を推し進めた結果、既に自国の原発を放棄することを決定しており、エネルギー供給をロシアからのパイプラインに依存するようになっている。

したがって、ロシアに対抗する米国やドイツなどの主要プレーヤーは腰が引けた状態となっており、仮にロシアによるウクライナ侵攻が現実化した場合でも、経済制裁などの形式上の対応は行うだけとなるだろう。

米国の軍事的な弱腰姿勢で、中国の台湾への圧力は強まる

一方、米国の軍事的な弱腰姿勢や欧州の民主主義の後退は、東アジア地域にもそのまま反映されることになる。

中国は平和の祭典である北京の冬季五輪を控えているため、2月中にロシアによるウクライナ軍事侵攻が行われる事態が発生することは快く思っていないだろう。北京夏季五輪の最中にロシアはグルジア紛争に及んでおり、中国は過去に国家としてのメンツをロシアに潰された経緯もある。また、中国は旧ソ連圏でロシアと影響力競争を行っており、ロシアの軍事力で自らの影響力拡大策がひっくり返されることも面白く思っていないだろう。(直近のカザフ政変では親中派が親ロ派の巻き返しにあった側面もある。)

しかし、今回の北京冬季五輪が終わってしまえば、中国にとっては台湾に対して圧力をかける絶好の好機が到来することになる。中国はバイデン政権の弱腰対応に鑑み、ロシアのウクライナ侵攻示唆のように、台湾が支配する東沙諸島などに限定的な侵攻を示唆する動きに出るだろう。

中国の圧力に対してバイデン政権が軍事介入を辞さない覚悟を示すことを想定するのは間違いだ。多数の人命が損なわれる可能性があるウクライナ侵攻ですら軍事的対抗措置に及び腰、米国が台湾の小島のために動くと考えることはナンセンスだ。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

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