コラム

2021年米国政治、バイデン政権vs共和党のパワーバランスを読み解く

2021年05月27日(木)17時30分
バイデン大統領

民主党は大統領・上院・下院の全てを支配するトリプルブルーを実現しているが...... REUTERS/Jonathan Ernst

<連邦上院議員議席数は共和党・民主党50対50で拮抗し、政治的意思決定は非常に微妙なバランスの上に成り立っている>

現在の米国の共和党・民主党の議会における勢力バランスを理解するため、まずはそのルールについて確認したい。

共和党・民主党50対50で拮抗している連邦上院議員議席数

米国の連邦上院議員議席数は共和党・民主党50対50で拮抗している状態にある。民主党側はホワイトハウスを支配しているため、投票可否が同数であった場合、カマラ・ハリス副大統領が裁定投票を下す。

ただし、共和党は大半の法案について議事妨害(フィリバスター)ルールを利用し、上院での法案成立に事実上60票を要するようにできる。したがって、バイデン政権・民主党政権は共和党側と妥協した法案修正が無ければ予算、法律、人事も成立させることができない。共和党側からの造反者は案件に応じて数名に留まるため10人に達することは稀だろう。

しかし、この議事妨害にも例外があり、民主党側は財政調整措置を利用し、一部の条件をつけて民主党側の50票だけでも予算を通過させることができる。これによって、バイデン政権発足当初のコロナ救済法案を共和党側からの造反無しで成立させた。そして、この他にも核オプションという手法で議事妨害を排除し、過去にも民主党・共和党ともに司法人事を単独過半数で上院を通過させることに成功している。(直近では最高裁判事などの承認人事で利用された。)

更に、上院議員らの賛成が得られるなら、上院の議事規則そのものを変更し、議事妨害そのものを廃止することも視野に入るが、それは両党の中道派議員が慎重な審議を求める議会の慣習が無くなることに反対をしていて実現の見込みは未知数である。

微妙なバランスの上に成り立つ連邦議会の意思決定

上記のように、米国の連邦議会の政治的意思決定は非常に微妙なバランスの上に成り立っている。民主党は大統領・上院・下院の全てを支配するトリプルブルーを実現しているため、最後の手段として議事妨害に関して無効化濫発または廃止をすれば、理論的にはほぼ何でも議会を通過させることができる。

しかし、そのような強硬姿勢はバイデン政権の左傾化の証拠として共和党側に選挙キャンペーンで利用されて中間層の離反を招く可能性がある。そのため、民主党内の当落線上にある上院の中道派議員だけでなく、下院側からも接戦選挙区の議員からの反発は必至だ。

この微妙な勢力バランスを利用し、共和党のミッチー・マッコーネル上院院内総務は財政調整措置の対象にならない、諸々の重要法案に対して事実上の拒否権を行使している。警察改革法案や連邦議事堂襲撃事件の特別調査委員会設置法案なども含めて、物議を醸す内容の法案は事実上廃案または大幅な修正無くしては通らないだろう。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

台湾輸出額、2カ月連続で過去最高更新 米関税巡り需

ビジネス

独裁国家との貿易拡大、EU存亡の脅威に=ECBブロ

ビジネス

ドイツ輸出、5月は予想以上の減少 米国向けが2カ月

ビジネス

中国自動車販売、6月は前年比+18.6% 一部EV
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 5
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    米テキサス州洪水「大規模災害宣言」...被害の陰に「…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 10
    中国は台湾侵攻でロシアと連携する。習の一声でプー…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 8
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 9
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story