コラム

「最悪のシナリオ」回避に動いた民主党支持者の危機感

2020年03月12日(木)18時40分

ステイヤーの脱落は誰もが予想していたことだが、アイオワとニューハンプシャーでサンダースを脅かすほどの善戦をしたブティジェッジとニューハンプシャーで意外な好戦をしたクロブチャーがスーパーチューズデー直前に撤退したことに多くの人は驚いた。どちらも少なくともスーパーチューズデーは戦うと言っていたからだ。ブティジェッジは、3月1日にジミー・カーターと会い、ほかにも多くの人物からアドバイスを受けたようだ。彼とクロブチャーがこのタイミングで降りてバイデンを支持する決意をした背景には「民主党をまとめて、最悪のシナリオを避ける」という大義があったのではないかと見られている。

スーパーチューズデーで期待した結果を得られずに撤退したウォーレンだが、現時点ではまだ誰を支持するのか発表していない。

政策ではサンダースに近く、プログレッシブ(急進派)とみなされているウォーレンなので、サンダース支持者はウォーレンがサンダース支持を公表することを期待している。ムスリム女性として初めての下院議員であるイルハン・オマルは、サンダース支持の急進派としても知られる。オマルは、スーパーチューズデー後に「中道が統合したように、急進派が昨夜統合していたら、誰が勝利したか想像してみてほしい」とツイートした。ソーシャルメディアでも、オマルのように「サンダース敗北の一因はウォーレンだ」と非難するサンダース支持者は多い。

だが、ウォーレンの支持者全員がサンダース支持に回るというのは、少なくとも地元のマサチューセッツでは事実ではない。ウォーレンの支持者には彼女の「人となり」へのファンが多く、民主党団結のためにウォーレンへの投票を諦めた人の多くはバイデンに票を投じた。それがマサチューセッツの結果に反映している。

サンダース支持者の「攻撃」

また、ソーシャルメディアでは、予備選の間にウォーレンに「陰険で二枚舌」という意味の「スネイク」という渾名をつけ、蛇の絵文字を使って人格攻撃をするサンダース支持者が目立った。

このようなサンダース支持者からの攻撃について、予備選を撤退した直後にウォーレンは政治テレビ番組で司会者からの質問に次のようなことを語った。

「バーニー・ブロ」と呼ばれる最も忠実なサンダース支持者が、サンダースではなくウォーレンを支持した有色人種の女性の自宅の住所や電話番号を公開した。その結果、それらの女性は猛烈な脅迫を受けることになった。ネットでもウォーレンを支持する(特に)女性が激しい攻撃にあい、支持が「安全ではない」と感じるようになった。

「それはサンダース特有のものですか?」という司会者の質問に、ウォーレンは「そうです。それが事実です」と断言した。ウォーレンは、サンダースにその状況を伝えたが、サンダースは何の対策も取らずに放置したようだ。司会者の質問に対して「それは私ではなく、彼自身が話すべきこと」とウォーレンが答えたことがそれを示している。

ウォーレンは、2016年の予備選のときのように指名候補が決まるまで支持を明らかにしないと見る者が多い。中立を保ったほうが、どちらの候補に決まっても、分裂した民主党をつなぐ架け橋になりやすいということもある。だが、ウォーレンは政策面でサンダースに非常に近い。その彼をウォーレンがいまだに支持していない理由の1つは、対立候補の支持者に恐怖を与えるような自分の支持者の言動をたしなめないサンダースの態度が影響しているのかもしれない。

スーパーチューズデーとスーパーチューズデーIIでのバイデンの勝利は、「バイデン勝利」ではなく、「最悪のシナリオ」を回避するために団結した民主党の勝利と捉えるべきだろう。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、東部要衝都市を9割掌握と発表 ロシアは

ビジネス

ウォラーFRB理事「中銀独立性を絶対に守る」、大統

ワールド

米財務省、「サハリン2」の原油販売許可延長 来年6

ワールド

中国、「ベネズエラへの一方的圧力に反対」 外相が電
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story