コラム

オバマを支えたミシェルにアメリカ女性が惹かれる理由

2019年01月11日(金)16時15分

「政治の世界には興味はない」と何度も繰り返すミシェルは、バラクのために上院議員の妻になり、大統領夫人になった。そして、この本でそれを率直に書いている。

アメリカの女性が惹かれるのは、このミシェルなのだと私は思う。

大統領夫人の回想録は、読者に親密さを抱かせつつも、あまり極端なことは書けないという「綱渡り」的な難しさがある。ミシェルは、それをうまくこなしたうえで、嘘のない「本物らしさ」を保っている。多くの人が知らなかったバラクの素顔を少しばらしながらも、決して貶めていない。

ただ、そんなミシェルが1人だけはっきりと批判している人物がいる。それはトランプだ。

「バラクのアメリカの出生証明書は偽造であり、ケニアで生まれたイスラム教徒だ」というニュアンスの陰謀説「バーサー運動」を公の場で何年にもわたって煽り続けたトランプに対し、「そのものがクレイジーで卑劣で、むろん、強い偏見と外国人差別が根底にあることを隠しもしない」と真っ向から批判し、「wingnuts や kooks(どちらも、考えていることが狂っている変人という俗語)をわざと煽り立てるためのものであり、危険でもある」、「もし精神が不安定な人が銃に弾をこめてワシントンまで運転してきたらどうするのか? もしその人が私の娘たちを狙ったらどうするのか? ドナルド・トランプは、派手で無責任なほのめかしで私たち家族を危険に晒した。この理由で、私は彼を決して許さない」と書いた。

これについてトランプ支持の共和党員は批判したが、それ以外の人々は「よく言ってくれた」とミシェルの正直さを讃えた。また、ここに彼女の「本物らしさ」を感じた読者もいる。

元大統領夫人の回想録で難しい綱渡りを達成した『Becoming』は、それだけでも非常に優れた回想録と言えるだろう。

この回想録を反映してか、2018年末には、「最も称賛されている女性」でミシェルは初めてヒラリー・クリントンを抜いて1位になった。

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プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

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