コラム

ボストンのキャリアウーマンが大阪の主婦になった実話

2015年08月24日(月)16時00分

日本語もろくに話せないアメリカ人女性が大阪で「主婦」に kazoka30-iStockphoto.com

 日本人の国際結婚は、もう珍しくない。直接知っている人がいなくても、知り合いの知り合いや、遠縁まで探せば1組くらいは見つかるだろう。

 日本人男性とアジア系の女性との結婚もよくあるが、日本での「国際結婚」のステレオタイプと言えば、日本人女性と白人男性の組み合わせではないだろうか?

 ところが、ボストングローブ紙が注目の一冊として取り上げるほどアメリカで話題になっている『The Good Shufu: Finding Love, Self, and Home on the Far Side of the World』は、そんな日本の「国際結婚」のイメージをくつがえす本だ。

 著者は、ボストン郊外の裕福な家庭で育った白人女性Tracy Slater。

 ユダヤ系の教育熱心な家庭で育ったTracyは、男性に頼らず自立している自分を誇りにしてきた。大学で教鞭を取るかたわら、囚人相手の文章教室でボランティアの講師を務め、ボストン周辺の作家がファンと触れ合う文芸サークル「Four Stories」を立ち上げ、多くの友人に囲まれて充実した生活を送っていた。

 とりたてて外国に興味はなかったし、エキゾチックな恋に憧れたこともない。結婚相手としてのスペックが揃っていて、母親を喜ばせるような高学歴、高収入のユダヤ系白人男性と付き合ったことはあるが、結婚したいほどの情熱を抱けずに30代になってしまった。

 それでも焦りなど感じていなかったTracyが、あろうことか、英語がそれほど達者ではない日本人男性と恋に落ちてしまった。そして2国間を行き来する長距離恋愛の末に、Tracy自身が日本語もろくに話せないのに、大阪で「主婦」になってしまったというのだ。

 これが小説なら、「現実味がない」と却下されそうな筋書きだ。

 と言うのは、ふつうの国際結婚の場合、一方が相手の言語や文化に興味を抱いているか、少なくともある程度の理解をしているものだ。

 このTracyとToruのケースは違う。Tracyは小遣い稼ぎのためにビジネススクール留学中のアジア人ビジネスマンに英会話を教える短期の仕事を引き受けただけだし、Toruの場合は会社の命令でボストンに派遣留学したにすぎない。どちらも相手の言語や文化には興味すら抱いていなかった。

 2人の運命を変えたのは、突然空から降ってきたような理屈抜きの「恋」である。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米テスラ、従業員の解雇費用に3億5000万ドル超計

ワールド

中国の産業スパイ活動に警戒すべき、独情報機関が国内

ワールド

バイデン氏、ウクライナ支援法案に署名 数時間以内に

ビジネス

米耐久財コア受注、3月は0.2%増 第1四半期の設
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 2

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 3

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」の理由...関係者も見落とした「冷徹な市場のルール」

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 6

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    コロナ禍と東京五輪を挟んだ6年ぶりの訪問で、「新し…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story