コラム

アルカイダ系JNIM、ついにナイジェリア攻撃へ...西アフリカを揺るがす「拡張戦略」が始まった

2025年11月20日(木)12時06分

第二に、ナイジェリア国内の勢力との連携強化である。JNIMは、単独でのナイジェリア浸透に加え、イデオロギー的に近しい現地の武装勢力、特にアンサール(Ansaru)との提携を通じて、その影響力を急速に拡大させようとしている。

ナイジェリアの地理や現地社会の慣習に精通するアンサールは、JNIMにとって、武器調達、地域社会へのサービス提供を通じた支持層の獲得、そして戦闘員のリクルートといった多岐にわたる側面で極めて有用な協力者となる。

この連携が実現した場合、ナイジェリア西部地域におけるアルカイダ系勢力の勢力基盤は、短期間で著しく強化される可能性も排除はできない。

第三に、ナイジェリア治安体制の脆弱性の利用である。ナイジェリア軍は現在、北東部でイスラム国西アフリカ州(ISWAP)やボコ・ハラムの残党と戦い、中西部では多数の山賊(バンディット)への対応に追われるという、多正面作戦の状態にある。

このため、軍事・警察リソースは深刻な不足に直面しており、今回の西部国境沿いへの攻撃は、このリソースの偏在と不足という構造的な弱みを突いたものである。新たな戦線を開くことで、ナイジェリア政府にさらなる防衛圧力をかけ、国家の安全保障体制を疲弊させる狙いがある。

今後のテロ情勢の行方:多重脅威の複雑化

JNIMのナイジェリア侵入は、同国のテロ情勢を悪化させる可能性がある。まず、ナイジェリア政府は、短期的な対応として、西部地域への武装勢力の浸透を防ぐため、国境警備の厳格化と対テロ作戦へのリソース集中を余儀なくされるであろう。

国境インフラの強化や、爆発物処理班(EOD)への資源配分を優先し、国際的な対テロ支援、例えば、環サハラ対テロ・パートナーシップ(TSCTP)を通じた支援の拡大を模索することも予想される。

しかし、この西部への注力は、北東部で活動するISWAPやボコ・ハラム対策に割くリソースを減少させるというトレードオフを生じさせるかも知れない。結果として、一時的にJNIMの活動が抑制されたとしても、国内の他の地域、特に北東部におけるテロや暴力のリスクが高まるという、「モグラ叩き」のような不安定化の連鎖が発生する可能性があろう。

さらに深刻なのは、ナイジェリア国内におけるテロ組織間の勢力争いの激化である。JNIMとアンサールによるアルカイダ系勢力の台頭は、ナイジェリアの主要な脅威であるISWAPにとって、西部のリクルート源と支配地域に対する直接的な脅威となる。

ISWAPは、この勢力拡大を阻止するため、アンサールの拠点や彼らと協力的な地元住民に対する攻撃を激化させ、既存の勢力圏維持を図るであろう。

また、ISWAPは、リソースと戦闘員の確保を巡る競争に打ち勝つため、ナイジェリア西部の地元の犯罪集団や山賊との一時的な連携を模索し、共同での誘拐や略奪を通じて、資金力と戦闘力を維持しようとすることも考えられる。

これにより、ナイジェリアのテロ情勢は、従来の「イスラム過激派 対 政府」という二項対立から、「アルカイダ系(JNIM/アンサール) 対 イスラム国系(ISWAP) 対 政府」という三つ巴の複雑な脅威へと変貌する。治安当局は、イデオロギーも戦術も異なる複数の敵と、国境全域で同時に戦うという、極めて困難な状況に直面することになる。

プロフィール

和田 大樹

CEO, Strategic Intelligence Inc. / 代表取締役社長
専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障、地政学リスクなど。海外研究機関や国内の大学で特任教授や非常勤講師を兼務。また、国内外の企業に対して地政学リスク分野で情報提供を行うインテリジェンス会社の代表を務める。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン、サウジ・ジュベイルの石化コンビナート攻撃 

ワールド

トランプ氏、イランに「文明消滅」警告 改めて期限内

ワールド

トルコのイスラエル総領事館前で銃撃戦、 犯人1人死

ワールド

高市首相「年を越えて石油確保」、補正考えず 予算成
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライナ軍司令官 ロシア軍「⁠春の​攻勢」は継続
  • 3
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 4
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 5
    「王はいらない」800万人デモ トランプ政権への怒り…
  • 6
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 7
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 8
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 9
    地面にくねくねと伸びる「奇妙な筋」の正体は? 飛行…
  • 10
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 3
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 4
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 5
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 8
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 9
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 10
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story