コラム

シリアで勢力拡大する反中テロ──ウイグル独立派武装組織の危険な進化

2025年08月12日(火)09時52分

シリア暫定政府への統合

アサド政権の崩壊後、TIPはHTSが主導する暫定政府の軍事構造に組み込まれつつある。一部のメンバーはシリア国防省の職員として雇用され、ダマスカス、ハマ、タルツースに配置されている。これにより、TIPはシリア社会に一定程度溶け込み、活動基盤を強化している。

しかし、メンバーの中にはアルカイダに近い過激なイデオロギーを保持しており、暫定政府の統制が及ばない場合、さらなる不安定化を招く可能性がある。


宗派間暴力への関与

2025年3月以降、シリア沿海部のラタキアやタルツースで宗派間対立に起因する暴力事件が頻発した。TIPは、HTS傘下の他の武装勢力(レッドバンド、シャヒーン旅団、スルタン・スレイマン・シャー師団など)やアルカイダ系のフッラース・アルディン(HAD)と共同で、アラウィー派を標的とした攻撃や民間人の大量逮捕に関与した。

これらの事件により、1000人以上の死傷者が出る惨事となったが、TIPの関与は宗派対立を利用して地域での影響力を拡大しようとする戦略を示している。

新疆ウイグルへの「ジハード」戦略と組織の再編

2025年3月、TIPは新たな戦略計画および規約を発表し、組織名を「東トルキスタン・イスラム党(ETIM)」に改称した。この改称は、新疆でのジハードを強化し、「武力による独立」を目指す明確な意図を反映している。指導者のアブドゥル・ハクは、海外のウイグル人コミュニティに対し、新疆ウイグルでの行動を扇動するメッセージを発信している。

この戦略は、シリアのHTSの成功やアフガニスタンのタリバンの事例に触発されたものであり、新疆ウイグルにおける活動再活性化を企図している。

プロフィール

和田 大樹

株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO、清和大学講師(非常勤)。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論など。大学研究者として国際安全保障的な視点からの研究・教育に従事する傍ら、実務家として海外進出企業向けに政治リスクのコンサルティング業務に従事。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア下院議長が北朝鮮訪問へ、植民地解放記念式典に

ワールド

ウクライナは自国の将来決める自由持つべき、EU首脳

ワールド

ガザへの物資投下、米政権の選択肢にないと関係筋 課

ワールド

豪中銀、全会一致で予想通り利下げ 追加緩和の必要性
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入する切実な理由
  • 2
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客を30分間も足止めした「予想外の犯人」にネット騒然
  • 3
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 4
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 5
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 6
    【徹底解説】エプスタイン事件とは何なのか?...トラ…
  • 7
    なぜ「あなたの筋トレ」は伸び悩んでいるのか?...筋…
  • 8
    「靴を脱いでください」と言われ続けて100億足...ア…
  • 9
    「古い火力発電所をデータセンターに転換」構想がWin…
  • 10
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 3
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 4
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 5
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 7
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 8
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 9
    こんなにも違った...「本物のスター・ウォーズ」をデ…
  • 10
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story