コラム

クロスドメイン(領域横断)攻撃は、戦闘を第二次世界大戦時に立ち戻らせる

2017年08月18日(金)19時30分

ハワイのオアフ島各所に点在する太平洋軍司令部、太平洋陸軍司令部、太平洋艦隊司令部、太平洋空軍司令部、そして太平洋海兵隊司令部も狙われる可能性がある。精度の問題はあるとしても、北朝鮮の大陸弾道ミサイル(ICBM)はハワイにも20分程度で届くのではないかと見積もられている。

その手前にあるグアムの米軍のアンダーセン空軍基地や各所の在日米軍基地も、物理的な攻撃の前にサイバー攻撃の対象になるかもしれない。在日米軍基地に電力、水道、ガスなどを提供している日本のインフラストラクチャも狙われるかもしれない。

復活する古い航法

米軍は、こうした事態になっても作戦活動が行えるように、ずいぶん前から訓練・演習を始めている。特に各軍では全地球測位システム(GPS)が使えなくなっても作戦行動がとれるように準備している。空軍の戦闘機や爆撃機は、GPSなしで自機の位置を把握しながら飛ばなくてはならない。海上の艦船は天体の位置から自船の位置を知らなければならない。航空機同士、艦船同士の通信も限られたものになる。視認できる範囲なら良いが、直感で判断しなければならない場面も多くなる。米軍が第二次世界大戦後に積み上げてきた軍事革命(RMA)やトランスフォーメーションによって獲得した質的な改善の多くが使えなくなるだろう。

実際、北朝鮮は、南北境界線に近い韓国の仁川空港に向けてGPSの妨害電波を出し、韓国の民間航空機の邪魔をしたことがある。実害は出なかったが、そうした技術に北朝鮮が関心を持っていることがうかがえる。

つまり、クロスドメイン攻撃で、特にサイバー・電子技術に頼った指揮命令システムや測位・探知システムが失われると、急速に戦闘は第二次世界大戦のレベルに戻っていくかもしれない。旧式のアナログ通信機器はどれだけ残っていて、使える状況になっているだろうか。

ロイター通信によれば、韓国は船舶向けに「eLORAN(enhanced LOng-RAnge Navigation)」という地上系電波航法技術を用いた代替システムを開発中だという。米国、ロシア、英国も関心を持っているようだ。

ワシントン・ポスト紙によれば、米国アナポリスの海軍兵学校では20年ほど前、天体に基づいた航法を教えるのをやめてしまっていた。しかし、サイバー攻撃の危険性が高まるにつれ、2015年にそれを復活させたという。

朝日新聞に掲載されたハリス司令官のインタビューによれば、抑止力とは「国家の能力×決意×シグナル発信力」だという。シグナル発信力とは、その能力と決意を相手に伝える力ということだろう。新しい技術は国家の能力を変化させる。そして、完全に第二次世界大戦と同じということはないかもしれないが、ハイテクに頼った戦闘は、意外に難しいかもしれない。戦場の霧を晴らすのはいつの時代も難しい。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

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