コラム

スノーデンが暴いた米英の「特別な関係」、さらに深まる

2016年06月15日(水)16時00分

Andrew Kelly-REUTERS

<スノーデンの暴露で注目された米国と英国の密接な協力関係。今また、英国政府の機関が米国のIT企業や通信会社の記録を手に入れることができるようになる、という協定を協議中だ>

スノーデンが暴露した米国と英国の密接な協力関係

 今から3年前、米国国家安全保障局(NSA)で民間の契約社員として働いていたエドワード・スノーデンが、NSAのトップシークレット文書を大量に暴露した。当時の様子を記録したドキュメンタリー映画『シチズンフォー スノーデンの暴露』の日本公開が6月11日(土)に始まり、再びスノーデンが注目されている。スノーデン本人のインタビューが週刊誌に掲載されたり、本人が遠隔中継で参加するイベントも都内で開催されたりした。

【参考記事】スノーデンが告発に踏み切る姿を記録した間違いなく貴重な映像

 スノーデンが暴露した文書で注目された点の一つが、米国と英国の密接な協力である。かねてから両国のインテリジェンス分野の協力は知られてきた。例えば、エシュロンという米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドというかつての大英連邦系の諸国によるインテリジェンス共有がそうである。その中核となる米英は「特別な関係」ともいわれてきた。

 しかし、米国はかつて英国の植民地であり、18世紀に独立戦争を戦った間柄でもある。第一次世界大戦の頃までは英国が世界の覇権国であり、英国から見れば、米国は遠く離れた旧植民地、新興勢力でしかなかった。しかし、自らの帝国が衰退基調に入ったことを自覚した英国は、第一世界大戦と第二次世界大戦において、国力に余裕を持ちながらも孤立主義に固まる米国を参戦させ、自陣営の勝利をものにする。二つの世界大戦を通じて両国のインテリジェンス共有が格段に進み、冷戦時代、そしてテロ戦争の現代へと続いている。

インテリジェンスのノウハウで先行していた英国

 19世紀半ばから普及が始まった電信の時代に情報通信ネットワークを牛耳っていたのは大英帝国だった。実に世界の三分の二の電信ネットワークを英国の御用会社が支配し、グローバルな植民地をつなぐとともに、他国の通信を傍受し、政治と経済にも活用していた。

 ロイター通信や貿易保険のロイズ保険も大英帝国の電信ネットワークを利用し、ビジネスを発展させている。そして、無線電信の発明と普及は、暗号技術の急速な進展を促している。そうした暗号を解読するために英国は密かに世界最初のコンピュータであるコロッサスを作った(しかし、1970年代までその存在は秘密にされていた)。

 ドイツのエニグマ暗号や日本の紫暗号を米英は協力して破る。敵国の動向をリアルタイムで察知しながら、その事実を悟られないように手を打つ。これが米英の伝統芸になる。シギント(SIGINT: signals intelligence)によって第二次世界大戦に勝利できたという認識は米英ともにあるが、特に英国ではそれが強い。

 第二次世界大戦において英国は首都ロンドンを含めてドイツに爆撃を受ける。辛くも戦争に勝利したものの、国力の衰退は明白になり、国際政治の覇権国は米国へと移っていく。戦後の国際政治経済体制を決するダンバートン・オークス会議やブレトンウッズ会議は米国で開かれた。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story