コラム

大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「ボス」になれないことだ

2024年04月25日(木)19時43分
石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
MLB, アメリカ, 大谷翔平, 日本, 野球

巨額の金を稼ぐ「チーム」のボスとして、野球以外の能力も求められる(4月12日、パドレス戦で本塁打を放ち塁を回る大谷選手) JAYNE KAMIN-ONCEA/GETTY IMAGES

<日本人は欧米などと違い、人を雇って命令するのが苦手。だが今後、家事や介護の外注が増えることを考えれば、大谷選手が元通訳にだまされた件は他人事ではない>

米大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手の元通訳による違法賭博と窃盗容疑のニュースを知り、元通訳が大谷選手の銀行口座に自由にアクセスできていたことには驚いた。元通訳の工作もあったにせよ、それだけ大谷が彼に絶大な信頼を寄せていたということでもある。同時に、これを大谷の純真無垢さの表れと考える日本人が多いことにも驚く。アメリカでも同情的な声はあるが、大谷は間が抜けていた、というのが大方の本音ではないだろうか。

中規模企業くらいの金額を稼ぎ出す彼は、野球選手であると同時に自身の資産(金銭だけでなく、心身やパブリックイメージ、プライバシーなど)を守るため代理人や会計士、通訳を雇う、いわばチームのボスであるはずだ。それが通訳に手玉に取られていたとなると、同情されたとしてもボスとしては失格。少なくとも日本以外ではそうだ。

欧米や私の出身国イランは日本以上に序列に厳しい。ボスとメンバー、客とサービス提供者はフレンドリーに見えても、その後ろに強固な序列があり、越えてはいけない一線がある。ボスはメンバーと友達にならないし、客は神ではないが友達でもない。厳しくも良いボスでないと尊敬されない。

日本人はボスになることが苦手だ。会社の中では上司として役割の範囲内で部下を管理できても、組織を一歩出ると、個人や家庭として他人を雇うことがうまくない。日本は戦後長らく格差の少ない社会だとされてきたからか、あるいは料理・掃除・子育ては専業主婦の妻がやるという時代が長かったからか、家庭で他人を働かせる光景が一般的ではなく、特別な大金持ちがやる贅沢という認識がいまだにある。

海外では一般家庭でも人を雇うのが普通

日本を一歩出ると、アジア諸国や欧米では家の掃除や子どもの世話のために他人を雇うのは普通のことだ。

シンガポールでは外国人家事労働者の地位が低く問題になっているが、そのくらい一般家庭に家事労働のアウトソーシングが浸透している。親が人を使うのを見て育った人は、他人を使うことに慣れている。翻って日本で人を使うとなると、雇い主のほうが緊張してしまい、お手伝いさんが来る前に家をきれいにしてしまう、という笑い話を聞く。

だが日本に長く住む私には、他人を家に入れることや指示を出し評価することに気後れがするという気持ちも理解できる。高級住宅地の立派な家に住む大物芸能人夫婦でも、家事は妻が一手に引き受け、掃除や料理をSNSで自慢する。日本人メジャーリーガーの伴侶もどうやら同様で、同僚選手の妻から夫の食事は料理人に任せて球場に来て応援しなさいと叱られるという。そのくらい日本人は他人を雇うことが苦手だ。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

豪GDP、第2四半期は前年比+1.8%に加速 約2

ビジネス

午前の日経平均は反落、連休明けの米株安引き継ぐ 円

ワールド

スウェーデンのクラーナ、米IPOで最大12億700

ワールド

西側国家のパレスチナ国家承認、「2国家解決」に道=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 5
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 10
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story