コラム

「日本は特別」に固執していては、ロシアのように「時代遅れ」になるだけだ

2022年06月08日(水)17時01分
石野シャハラン
スマホを使う日本人

TAKASHI AOYAMA/GETTY IMAGES

<ウクライナ侵攻で、ロシアの軍事技術が実は時代遅れだったと分かった。「世界の常識」から距離を置いて「技術鎖国」していては、日本も同じ道をたどることに>

5月9日のロシアの戦勝記念パレードは、以前から「プーチン大統領が『戦争宣言』をするのでは」「核攻撃を示唆するかもしれない」と世界の注目を集めていた。かつてない規模で生中継されて、固唾をのんで見守った人も多かったはずだ。私もその1人で、モスクワとの時差を調べて、BBCの中継を1時間ほど見てしまった。

報道されたように、プーチンの演説は予想とは違い、あっさりしていてテンションが低く、短いものだった。でも私にとって興味深かったのは、観覧席にいる見物客たちの中に最新型かそれに近いと思われるiPhoneで軍事パレードを撮影している人たちがいたことだ。それもコソコソとではなく、当たり前のように堂々とそれを高く掲げているので、こんな状況でもiPhoneは許されるのね? と笑ってしまった。

言うまでもなく、iPhoneはアメリカの巨大IT企業の主力商品である。ロシアのウクライナ侵攻後、欧米と日本の大企業はロシアでの事業停止(あるいは撤退)を決めたし、ロシアは対抗措置として外資企業が残した財産を国有化すると発表している。今や欧米企業とロシアは相いれない関係になってしまったように見える。

だが一般市民(観覧席の人々を「一般市民」と呼べるかどうかはともかく)は本音では、最新で便利で格好いいものは、相いれない他国のものでも使い続けたいのだろう。同時に、今さらiPhoneを排除するわけにいかないとも推測する。

圧倒的な軍事力を持っているはずだったロシア

ロシアの侵攻に世界中がショックを受けたのは、人権や世界平和、SDGs(持続可能な開発目標)が世界の常識となりつつある21世紀に全くそぐわない暴挙だからだ。それに現代は、強大な国家が国境に高い壁を造って国内の情報や世論、技術をコントロールできていた20世紀とは全く異なる。テクノロジーによって国境の壁は今までになく低くなっている。

技術に関して国境を閉ざしている国がどうなるかは、圧倒的な軍事力を誇ると見なされてきたロシア軍の、どうやら随分時代遅れらしい兵器に関する報道を見れば明らかだろう。

では日本はどうだろう。もちろんiPhoneも他のアメリカ製品も大人気だが、いまだに「日本は他の国と違う」「海外の常識は通用しない」といった言葉を聞かない日はない。それが日本製品の質を高めていこうという方向に行くのならばいいのだが、このメンタリティーのせいで旧態依然とした社会システム、硬直したビジネス慣行が変わらず幅を利かせてもいる。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story