コラム

世にも奇妙なホワイトハウス公式文書

2018年11月26日(月)15時55分

それでもサウジと共にあるアメリカ

国際的な注目を集めるハーショグジー氏殺害事件だが、そこにムハンマド皇太子が関与したかどうかなど関係ないと一蹴する第六パラグラフ。


That being said, we may never know all of the facts surrounding the murder of Mr. Jamal Khashoggi. In any case, our relationship is with the Kingdom of Saudi Arabia. They have been a great ally in our very important fight against Iran. The United States intends to remain a steadfast partner of Saudi Arabia to ensure the interests of our country, Israel and all other partners in the region. It is our paramount goal to fully eliminate the threat of terrorism throughout the world!

(そうはいえど、ハーショグジー氏殺害に関する全ての事実を知りうることは出来ない。何にせよ、我々の関係はサウジアラビア王国と共にある。サウジは我々のイランとの大変重要な戦いの偉大な同盟国である。アメリカは我々やイスラエルや地域のパートナーの国益を守るためにもサウジアラビアの不動のパートナーであり続ける意思を持つ。世界中のテロの脅威を完全になくすことが我々の最上のゴールである。)

イランとの「戦い」と、既にマインドの上ではイランとの戦争を始めているトランプ大統領だが、その「戦い」のためにはサウジとの同盟を維持することが重要であると改めて強調している(なお、アメリカとサウジの間には相互安全保障を定めた条約などはない)。さらに、アメリカだけでなく、イスラエルの国益のためにもサウジとの同盟関係が必要であるという主張をしている。

しかし、イエメンに介入してから3年以上も経つのに、一向に軍事的な勝利を得ることがなく、相当な戦費をかけ、アメリカの支援を受けているのにフーシ派との戦いに決着をつけることが出来ないサウジが、果たしてイランとの「戦い」でどのような役割を果たすのかは興味深いところである。トランプ大統領はサウジの軍事力をどのように評価しているのかは不明だが、アメリカの最新鋭の武器を揃えても、それが自動的に軍事的な力になっていないという点は留意しておきたい点である。

アメリカ第一のためのサウジとの同盟

最後の第七パラグラフでは、国内の共和党も含むムハンマド皇太子への批判勢力(とりわけ共和党のグラハム上院議員など)へのメッセージで締めくくり、アメリカ第一主義とサウジとの同盟の重要性が説かれている。


I understand there are members of Congress who, for political or other reasons, would like to go in a different direction - and they are free to do so. I will consider whatever ideas are presented to me, but only if they are consistent with the absolute security and safety of America. After the United States, Saudi Arabia is the largest oil producing nation in the world. They have worked closely with us and have been very responsive to my requests to keeping oil prices at reasonable levels - so important for the world. As President of the United States I intend to ensure that, in a very dangerous world, America is pursuing its national interests and vigorously contesting countries that wish to do us harm. Very simply it is called America First!

(政治的な動機ないしは他の理由で議員の中に異なる主張をする人たちがいることを私は理解している。彼らがそうするのは自由である。彼らが示すいかなるアイディアも、アメリカの完全なる安全と安全保障と矛盾しない限りにおいて考慮する。アメリカに次いでサウジは世界でも最大の産油国である。彼らは我々と緊密に協調し、原油価格を合理的なレベルに抑えて欲しいという私の要求に非常に積極的に対応している。これは世界にとってとても重要だ。アメリカ大統領として、このとても危険な世界において、アメリカが国益を追求し、我々に害をなそうとする敵対国家と強く対抗することを推し進める。簡単に言えば、これがアメリカ・ファーストだ!)

このパラグラフでは、サウジはイランに対抗し、原油価格を下げる努力をしてくれる国でもあり、それは世界のため(実質はアメリカのため、しかもトランプ支持者のため)になることをしてくれる国である、ゆえにサウジとの関係はアメリカ第一主義なのだ、という論理が展開されている。それはアメリカの価値や道徳を優先するという意味ではなく、アメリカの利益を優先するアメリカ第一主義である。

つまり、気に入らないジャーナリストを殺害するのは、アメリカが掲げる報道の自由や言論の自由といった価値に反すると考え、サウジを批判するグラハム上院議員のような人に対し、アメリカの利益のために報道の自由などはたいした問題ではないというのが、このホワイトハウスの公式文書の主旨である。言い換えれば、アメリカの役に立つことであれば、ジャーナリストを殺害するのも問題ないと言わんばかりの議論である。すでにトランプ大統領はこうした価値や正義よりも利益を優先するという姿勢は何度も見せてきたが、それが赤裸々に公式文書で語られるということに相当な違和感がある。

プロフィール

鈴木一人

北海道大学公共政策大学院教授。長野県生まれ。英サセックス大学ヨーロッパ研究所博士課程修了。筑波大大学院准教授などを経て2008年、北海道大学公共政策大学院准教授に。2011年から教授。2012年米プリンストン大学客員研究員、2013年から15年には国連安保理イラン制裁専門家パネルの委員を務めた。『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2011年。サントリー学芸賞)、『EUの規制力』(共編者、日本経済評論社、2012年)『技術・環境・エネルギーの連動リスク』(編者、岩波書店、2015年)など。

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