最新記事
民主主義

他国の追従を許さない、「シャープパワー強国」2カ国...その異なる特徴から分かること

2025年8月7日(木)16時45分
水村太紀(国際協力銀行〔JBIC〕調査部 調査役)

このように、中国系のアクターは共産党支配の正統性を維持しつつ、主権をめぐる問題について、自国の立場を国際社会に浸透させようとしている一方、ロシア系のアクターは他国の民主主義制度そのものへの信頼を揺るがし、社会の分断や混乱を引き起こすことを狙ってシャープパワーを行使している。

もっとも、中国型とロシア型のシャープパワーは、必ずしも明確に区分されるわけではない。

実際に、台湾では近年、中国の影響下にあるとされるメディアやインフルエンサーを通じて、「台湾有事が発生しても、米国は助けに来ない」といった「疑米論」が盛んに拡散されている。

こうした言説は、米国政府や民進党政権への人々の不信感を増長させ、社会の分断を加速させるものであり、戦術としては「ロシア型」に近い。

自由が試される時代にどう備えるか

中国系とロシア系のアクターは、一見異なるアプローチを取りながらも、民主主義国家が抱える脆弱性を的確に突いている点は共通している。

権威主義国家によるシャープパワーに対処する上で、各国が偽情報の遮断や外国勢力による活動の透明化といった枠組みを整備していく必要性は言うまでもない。だが、このように「防御」を固めようとするあまり、民主主義国家が誇る言論・表現の自由が傷つけられてしまえば、本末転倒である。

真に問われているのは、権威主義国家によるシャープパワーに対抗しながら、いかに民主主義国家が自らの価値を守り抜くかという課題である。

[主要参考文献]
川上桃子・呉介民(編)『中国(チャイナ)ファクターの政治社会学―台湾への影響力の浸透』白水社、2021年
瀬能繁「移民大国カナダに試練、中国の選挙介入を認定 印パも」『日本経済新聞』、2024年4月23日
林哲平「『疑米論』台湾で拡大、裏にある意図"中国の浸透"研究者警鐘」『毎日新聞』、2023年11月21日
Fu, Hiro. "Taiwan's Political Divide on UN Resolution 2758." The Diplomat, 24 Sept. 2024
Kim, Taehwan. "Authoritarian Sharp Power: Comparing China and Russia." The Asan Forum, 18 June 2018
Isaac, Mike and Shane, Scott. "Facebook's Russia-Linked Ads Came in Many Disguises." The New York Times, 2 Oct. 2017

[筆者]
水村太紀(みずむら・ひろき)
国際協力銀行(JBIC)調査部第2ユニット調査役。日本台湾交流協会台北事務所渉外室専門調査員(担当:両岸関係、台湾内政)や在アメリカ合衆国日本国大使館政務班二等書記官(担当:米中・米台関係、東南アジア情勢)などを歴任し、現職。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学公共政策大学院、北京大学国際関係学院、英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで修士号を取得。中国語、韓国語、英語、フランス語に堪能。

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局

ワールド

ポーランドの2つの空港が一時閉鎖、ロシアのウクライ

ワールド

タイとカンボジアが停戦に合意=カンボジア国防省
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中