最新記事
チベット問題

ダライ・ラマ14世が「後継者」を語る日がついに...中国やチベットはどう出る? 転生制度の未来は?

2025年7月1日(火)14時25分
楢橋広基(本誌記者)

言語を奪われるチベット人

中国政府は現在も、チベット人の弾圧を続けている。

1949年に中国を統一した中国共産党は、その後にチベットに侵攻、1951年に同地を制圧した。共産党はその後、各地で虐殺を行うなどチベット人を弾圧したため、チベット全域で動乱が発生。この動乱は鎮圧されたものの、1959年にダライ・ラマ14世はインドのダラムサラに亡命することとなった。

【画像】近現代チベットの略史


その後、ダライ・ラマ14世は同地で亡命政府である「中央チベット政権」を設立。当初は亡命政府の政治・宗教のトップを務めていたが、現在、ダライ・ラマ14世は政治トップの座は首相に譲っている。

一方、中国のチベット自治区では、ダライ・ラマ14世の亡命後も文化大革命で貴重な文物が破壊された他、チベットの独立や権利拡大を目指すデモが起これば戒厳令が敷かれ、チベット人が何百人も殺されてきた。

今なお、チベット寺院の僧侶による抗議の焼身自殺も後を絶たない。ダライ・ラマ法王日本代表部事務所のアリヤ・ツェワン・ギャルポ代表は本誌の取材に、2009年以降だけでも157人以上が焼身自殺を遂げたと述べた。

文化的弾圧も深刻で、最たる例がチベット語の教育の急速な縮小だ。多くのチベット語教育を行う学校が閉鎖に追い込まれている。中国政府が教育や文化を奪うことで、チベットの漢民族への同化を進めているのだ(参考記事:言語を奪われ、社会が崩壊する...150人以上が「焼身自殺」、中国支配のチベットの実態)。

アリヤによると、チベット人の学生がチベット語よりも中国語を流暢に話すようになってきたため、親子のコミュニケーションが困難になっているチベット人の家庭もあるという。

またアリヤは、チベットのアイデンティティー、文化、仏教思想を守り、理解するためにはチベット語が必須なので、チベット人の力の源泉でもあるチベットの文化と仏教の勢力衰退にもつながると指摘する。

最近では、チベットの英語表記を「Tibet」ではなく、中国語名(西蔵)をスペルアウトした「Xizang」とするなど、中国政府はチベットを同化させようと躍起になっている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、月内の対インド通商交渉をキャンセル=関係筋

ワールド

イスラエル軍、ガザ南部への住民移動を準備中 避難設

ビジネス

ジャクソンホールでのFRB議長講演が焦点=今週の米

ワールド

北部戦線の一部でロシア軍押し戻す=ウクライナ軍
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 5
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 6
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 9
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 10
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中